ガストン・トルン

ガストン・エグモン・トルンは、1928年9月3日にルクセンブルク市で生まれ、2007年8月26日にその生涯を終えた、ルクセンブルクを代表する政治家の一人です。彼は首相、国際連合総会議長、欧州委員会委員長といった、国内外の極めて重要なポストを歴任し、顕著なキャリアを築きました。

学生時代、彼はドイツによる占領に対する抵抗運動に積極的に参加し、その活動のために数ヶ月間の投獄を経験するという困難な時期を過ごしました。その後、モンペリエ、ローザンヌ、パリの各大学で法学を修め、ルクセンブルクに戻って弁護士として活動を開始しました。法律家としての経験を積んだ後、1959年に民主党へ入党し、政治家としての道を本格的に歩み始めます。党内での地位を確立し、1961年には党のリーダーに就任しました。

ルクセンブルク政府においては、1969年から1980年までの長きにわたり、外務大臣および通商大臣を務めました。この重要な期間中、彼はさらに多くの要職を兼任しています。具体的には、1974年から1979年にかけては首相を兼務し、国の最高責任者としての役割を果たしました。加えて、1977年から1980年には経済大臣の職も担い、国内政治において多大な影響力を行使しました。

国際的な舞台での活躍も特筆されます。1959年から1969年まで欧州議会の議員として欧州統合の初期段階に関与しました。また、1975年から1976年には国際連合総会の議長という要職を務め、世界平和と国際協力の推進に貢献するなど、その活動範囲は広範に及びました。

彼のキャリアにおける最も重要なポストの一つが、欧州委員会委員長です。1980年にロイ・ジェンキンスの後任としてこの職に選出され、翌1981年1月6日に正式に就任しました。委員長在任中、トルンは当時のフランス大統領ヴァレリー・ジスカール・デスタンと緊密な関係を築いていたことが知られており、欧州政治においてフランスの国益を擁護する立場にあると見なされることもありました。彼の欧州委員会委員長としてのリーダーシップについては、必ずしも強力とは見られない評価もありましたが、トルンが率いた期間に、欧州委員会が欧州共同体加盟国政府や欧州議会に対して持つ影響力は着実に増大していきました。この時期の欧州委員会内部では、権力的な駆け引きが頻繁に行われており、特にトルンの後任としてジャック・ドロールが指名されるまでの過程は、こうした状況を象徴する出来事でした。

1985年に欧州委員会委員長を退いた後、トルンはビジネス界に転身し、実業家として新たなキャリアをスタートさせました。ルクセンブルク最大のメディア企業であるCLT（後にRTLグループとなる）の社長、そしてルクセンブルク国際銀行の頭取といった要職を歴任し、経済界でもその手腕を発揮しました。

実業界での活動と並行して、彼は晩年も外交や政治分野への関与を続けました。欧州統合運動の代表、三極委員会の委員、ジャン・モネ計画の委員などを務め、欧州および国際社会における議論に貢献しました。さらに、世界の自由主義政党が集まる国際組織である自由主義インターナショナルでは議長を務めた後、名誉議長の称号を得るなど、多岐にわたる分野でその影響力を行使しました。ガストン・トルンは、政治、国際関係、ビジネスと、様々な領域で卓越した足跡を残した人物として記憶されています。

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