ガンピ

ガンピ（雁皮）

ガンピ（学名: Diplomorpha sikokiana）は、ジンチョウゲ科ガンピ属に分類される落葉性の低木です。古くから和紙の原料として利用されており、特にその繊維から作られる紙は、他の素材では得られない独特の美しさと品質を持っています。別名として「カミノキ」とも呼ばれています。

名称の由来

「ガンピ」という名前の由来には諸説あります。一つは、植物の古名である「カニヒ（伽尼斐）」が変化したという説です。もう一つは、「カミヒ（紙斐）」が訛ってガンピになったとする説があります。どちらの説も、この植物が紙の原料として重要であったことを示唆しています。

分布と生育環境

ガンピは、主に温暖な地域を好みます。日本の本州では、静岡県の伊豆が東限、石川県の加賀市付近が北限とされています。四国や九州、静岡、兵庫などに多く分布し、山中などの日当たりの良い場所に自生します。自然環境では、限られた地域にのみ生育していることが特徴です。

特徴

ガンピは、高さ1.5～2メートル程度になる落葉広葉樹の低木です。枝はなめらかで濃褐色を呈し、若い枝には毛が生えています。葉は互生し、長さ3～5センチメートルの卵型で、全体に絹のような毛があります。特に葉の裏面に多くの毛が生えているのが特徴です。

花期は初夏の5月から6月にかけてで、枝の先に黄色の小さな花が数個集まって咲きます。花弁はなく、萼が筒状になり、先端が4つに裂けて花冠のように見えます。雄蕊は8個あります。

果実は10月から11月頃に成熟し、痩果と呼ばれる長さ5～6ミリメートルの紡錘形をしています。萼筒に包まれた状態で、褐色に熟します。

人工栽培

近年、野生のガンピは乱獲により減少傾向にあり、その持続可能な利用のために人工栽培が試みられています。実生、根分け、挿し木などの方法で苗を育てますが、特に1年目の植え替えの際には注意が必要です。苗を植え付けてから3年目に最初の収穫を行うことができ、収穫は4月から11月が適しています。収穫した樹皮は乾燥させて出荷され、製紙の過程はミツマタなどと同様に行われます。

利用

ガンピの樹皮から得られる繊維は、きめ細かく、優美で光沢があります。また、平滑で半透明であり、粘性があり、緊縮した紙質が特徴で、高級和紙の原料として珍重されています。繊維の長さは楮の3分の1程度と短いですが、その品質は非常に優れています。また、富山県の一部地域では、模造紙のことを「雁皮」と呼ぶ方言が存在します。

歴史

ガンピを使用した紙の歴史は非常に古く、奈良時代にはすでに製紙原料として利用されていました。遣唐使として唐に渡った最澄が、土産として筑紫の斐紙（ガンピ紙）を持参したという記録も残っています。これは、当時の中国においても、その品質が高く評価されていたことを示しています。平安時代には、公家の女流歌人たちが、かな文字を書くのに最適な紙としてガンピ紙を愛用しました。中世から近世にかけては「鳥の子紙」の名で知られ、紙の王としてその名を馳せました。

参考文献

西田尚道監修 学習研究社編『日本の樹木』 5巻、学習研究社〈増補改訂 ベストフィールド図鑑〉、2009年8月4日、45頁。ISBN 978-4-05-403844-8。

関連項目

ミツマタ

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