キイジョウロウホトトギス

キイジョウロウホトトギス（Tricyrtis macranthopsis）

キイジョウロウホトトギスは、ユリ科ホトトギス属に属する多年草です。紀伊半島南部の湿った岩場に自生し、独特の美しい姿から観賞用として珍重されています。

特徴

草姿: 茎は長さ40～80cmに垂れ下がり、多数の根を出します。茎は分枝せず、上部にまばらに毛が生えています。
葉: 披針形で、長さ12～18cm。葉の基部が茎を抱き込むように付くのが特徴です。この点が、同じジョウロウホトトギスとの識別点となります。
花: 8～10月に開花。黄色い釣り鐘状の花を下向きに咲かせます。花被片は長さ約40mmで、内側に紫褐色の斑点があります。外花被片の基部には距があります。
雄しべ・雌しべ: 雄しべは6本、雌しべの花柱は先端が3裂し、それぞれがさらに2裂します。
果実・種子: 蒴果は線状長楕円形、種子は広卵形です。

花の構造と送粉

キイジョウロウホトトギスの花は約5日間開花し、雄性先熟です。葯は開花前に口を開き、柱頭は開花期間の後半に成熟します。送粉はトラマルハナバチによって行われます。ハチは花に下から潜り込み、蜜を吸う際に葯や柱頭に触れ、花粉を運びます。キイジョウロウホトトギスの開花期間はホトトギス属の中でも長く、ハチの訪問頻度が低くても受粉が可能です。

分布と生育環境

キイジョウロウホトトギスは、紀伊半島南部の固有種です。山地の湿った岩場に生育し、茎を垂らして生きています。生育環境が似ているイワナンテンと間違われることもありますが、キイジョウロウホトトギスは草本であり、冬には地上部が枯れます。

分類

キイジョウロウホトトギスは、かつてジョウロウホトトギス（トサジョウロウホトトギス）と同種とされていました。しかし、葉の付き方などの違いから、現在では別種として扱われています。また、サガミジョウロウホトトギスやスルガジョウロウホトトギスなど、類似の種も存在します。これらの種は、花が下向きに咲くことや、外花被片に距があることなど、共通の特徴を持っています。

利用

キイジョウロウホトトギスは、古くから観賞価値の高い植物として知られていました。『紀伊続風土記』にも「黄杜鵑草」として記載されています。現在でも、山野草、切り花、茶花として利用され、高い評価を得ています。栽培方法や技法も研究されており、自生地では保護を目的とした栽培も行われています。和歌山県すさみ町佐本地区では、生産組合が組織され、種苗や切り花が出荷されています。また、地域おこしの一環として、「キイジョウロウホトトギス祭」が開催されています。

保護の現状

キイジョウロウホトトギスは、園芸用の採取や生育地の破壊により、その数を減らしています。環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧II類に指定されており、分布域のある和歌山県と奈良県でも絶滅危惧II類、三重県では絶滅危惧I類に指定されています。自生地での保護対策と、栽培による種の保存が急務となっています。

絶滅危惧II類 (VU)（環境省レッドリスト）

参考文献

佐竹義輔他、『日本の野生植物　草本I 単子葉植物』、(1982)、 平凡社
北村四郎他、『原色日本植物図鑑（下）』、(1964)、保育社
牧野富太郎、『牧野　新日本植物圖鑑』、(1961)、図鑑の北隆館
南紀生物同好会編、『わかやまの生物』、(1972)、帯伊書店
和歌山県環境生活部環境生活総務課、『保全上重要な わかやまの自然-和歌山県レッドデータブック-』、(2001)
宮本芳城他、「キイジョウロウホトトギスの保護および産品化に関する研究(1)」、(2004)、和歌山県農林水産総合技術センター研究報告、No.5, p.35-42.
村上豪完他、「キイジョウロウホトトギスの日長処理による開花調節」、(2007)、和歌山県農林水産総合技術センター研究報告、No.8 p.85-91.
* Takahashi Hiroshi, 1993. Floral Biology of Tricyrtis macranthopsis Masamune and T. ishiana (Kitagawa et T. Koyama) Ohwi et Okuyama var. surugensis Yamazaki (Liliaceae). Acta Phytotax. Geobot. 44(2): p.141-150.

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