キス (魚)

キスは、スズキ目スズキ亜目キス科（学名：Sillaginidae）に属する魚類の総称として広く知られています。また、キスという言葉が、キス科の中でも特に代表的な種であるシロギス（Sillago japonica）の別名として用いられたり、逆にシロギスがキスの別称とされる場合もあります。キス科には、ホシギスやアオギスといった種類が含まれ、沿岸の浅い海に暮らすものを中心に、少なくとも5属、およそ33種が確認されています。これらのキス類の多くは、食用として重宝されるとともに、釣りのターゲットとしても非常に人気があります。

分布

キス科の魚たちは、南アフリカから遠く日本、そしてオーストラリアに至る広大なインド洋および西部太平洋域に分布しています。これらの海域の沿岸部に生息しており、それぞれの種類に適した環境を選んで生活しています。

生態

ほとんどのキス類は、海岸近くの砂地の海底で生活を送っています。しかし、中には稚魚の時期に河口などの汽水域で成長するものもおり、ごく稀には淡水域へと進出する種類も知られています。産卵期を迎える夏の盛りには、繁殖のため沿岸のごく浅い場所まで移動してきます。この時期には、砂浜の波打ち際でも、海底の砂の中を探るように頭を下げて泳ぎ回る姿を見ることができるかもしれません。食性は特定のものを専門に捕食するのではなく、雑食性です。主に、ゴカイやスナモグリ、ヨコエビといった、海底の砂の中に生息する様々な底生生物を捕らえて食べています。

形態

キス科の魚たちは、共通して細長い円筒形のスレンダーな体型をしています。口は比較的小さく、その前方にある吻（口先）は尖っています。この尖った吻は、彼らが海底の砂に潜む獲物を見つけ出すために役立てられています。多くの種類は成熟すると全長45センチメートル程度になりますが、中には最大で70センチメートルもの大きさに成長する種類も存在します。浮き袋については、持たないか、あるいは非常に小さく痕跡的な場合が多いのですが、もし存在する種類では、多数の突起が集まった複雑な構造を示しているのが特徴です。

背びれは二つあり、互いの間隔はほとんどなく、非常に近接しています。体の前側にある第一背びれは硬い棘（とげ）で支えられており、その数は10本から13本です。後ろ側の第二背びれは、1本の細い棘と16本から27本の柔らかい条（すじ）で構成されています。尻びれ（臀鰭）の付け根は比較的長く、2本の棘と14本から26本の条を持っています。体を支える背骨にあたる椎骨の数は、種類によって32個から44個と幅があり、スズキ目の中で近縁な30種ほどの小グループとしては例外的に変化が大きいことがわかっています。

利用

キス類の魚は、そのほとんどが人間の食用として利用されています。身は白身で、脂肪分が少なく柔らかいため、非常に美味であるとされています。調理法は多岐にわたり、素材そのものの味を楽しむ塩焼きはもちろんのこと、新鮮なものは刺身でも美味しくいただけます。また、天ぷらやフライにすると、上品な白身の風味とふっくらとした食感が味わえ、人気の高い料理法です。日本の歴史においても、江戸時代の将軍が特定の日にキスの塩焼きと漬け焼きを組み合わせた「鱚両様」を食べることを日課としていた記録が残っており、古くから重要な食材であったことがうかがえます。

食用としての価値に加え、キスは釣りの対象魚としても非常に人気が高い魚です。海岸から遠投して狙う投げ釣りや、船から仕掛けを下ろして釣る方法などがあり、特別な技術がなくても手軽に楽しめることから、多くの釣り人に親しまれています。かつて東京湾では、アオギスを釣る際に浅瀬に脚立を立ててその上に腰かけ、独自のスタイルで楽しむ「脚立釣り」が名物となっていました。しかし、その後に進んだ水質汚染などにより、産卵に必要な干潟を失ったアオギスが激減し、現在ではこの釣り風景は見られなくなりました。釣り餌としては、ゴカイなどの多毛類や貝類といった生きた餌がよく使われるほか、近年ではソフトプラスチック製の疑似餌も効果を発揮しています。

分類と主な種類

キス科の分類は近年研究が進み、Kaga（2013）による研究などにより、現在はアトクギス属 Sillaginops を新たに設けるなど、従来の3属から5属へと見直されています。FishBaseという魚類のオンラインデータベースには、これら5属に属する37種が記載されています。

主な種類としては、日本で最も身近なシロギス（Sillago japonica）が挙げられます。体長は35センチメートルほどになり、北海道南部以南の日本沿岸から東シナ海にかけて広く分布しています。体色は淡い褐色ですが、光の当たり方で体側が虹色にきらめきます。投げ釣りの最も一般的な対象魚であり、シロギスだけを狙う釣り大会も開催されるほどです。アオギス（Sillago parvisquamis）は、その名の通り青みがかった体色をしており、体長は40センチメートルほどになります。かつては東京湾や伊勢湾にも多く生息していましたが、環境の変化により生息地が失われ、現在では九州や台湾など、限られた地域に細々と生き残っている希少種です。遠浅の浜に脚立を立てて釣る方法は、もともとシロギスよりも警戒心の強いアオギスを狙うために考案されたものと言われています。ホシギス（Sillago aeolus）は体長が25センチメートルほどで、日本では主に奄美大島より南の海域に分布しています。死んだ後に体側に褐色の斑点が浮かび上がる特徴があります。ダイオウギス（Sillaginodes punctata）は、最大で70センチメートルにも達する大型の種類ですが、主にオーストラリア近海に分布しており、残念ながら日本の海には生息していません。全身に褐色の小さなまだら模様があるのが特徴です。

語源と関連語句

「キス」という名前の語源については、いくつかの説があります。日本の海岸でよく見られ、比較的簡単に釣れることから「岸（きし）」という言葉が変化して「キス」になったという説。また、その身が淡白で上品な味わいであることから、「潔し（いさぎよし）」という言葉が転訛したとする説。さらに、群れを作りやすい性質から「帰す（きす）」、すなわち魚が集まって帰るという意味に由来するという説なども唱えられています。また、その細長い円筒形の体型から、人の痩せている様子を表す「痩せぎす」という言葉の語源の一つになったとも考えられています。

キスは、古くから日本の文化や食生活に深く関わってきた魚と言えるでしょう。

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