キヌカツギハマシイノミガイ

キヌカツギハマシイノミガイについて

キヌカツギハマシイノミガイ（学名：Melampus sincaporensis）は、オカミミガイ科に属する小型の巻貝です。この貝は主に西太平洋の暖かい海域、特に汽水域の塩性湿地周辺に生息しています。日本では本州中西部、四国、九州などに見られるほか、朝鮮半島南部や中国、台湾、シンガポール、フィリピン、インドネシアでも見つかります。

特徴

成貝の貝殻は通常、殻高が約8mm、稀に10mmを超える程度で、比較的小型です。貝殻の形は卵形で、薄い殻質を持ち、鶏卵やドングリにも似た形状です。全体の色は淡褐色で、複数の黒褐色の色帯が入っており、光沢のない殻皮が覆っています。ただし、個体によっては色帯が無かったり、殻表が傷や侵食により色帯が確認しづらいこともあります。

貝殻の縦長な殻口は狭く、外唇は薄いですが、殻底周辺はやや厚みがあり外反しています。内側には特徴的な歯状の構造があり、内唇には強い歯が1つ、外唇内側にも短いレール状の歯が数個存在します。軟体部は黒い頭部を持っており、触角の一部は半透明の淡褐色です。

名称の由来

標準和名の「キヌカツギハマシイノミガイ」は、同属にあたるハマシイノミガイの貝殻に似ていることや、卵形・褐色の殻がサトイモの小芋「きぬかつぎ」に似ていることに由来しています。また、「ガイ」は貝を意味する日本語の一部で、しばしば省略され「キヌカツギハマシイノミ」とも呼ばれます。韓国名は「낮은탑대추귀고둥」で、「低塔棗耳貝」という意味です。

学名の属名Melampusは、ギリシア語で「黒い足」を意味する言葉から来ていて、またはギリシア神話の占術師メラムプースに由来しています。種小名のsincaporensisは、シンガポールでの発見に基づいています。

生態

キヌカツギハマシイノミガイは、波が穏やかな内湾や汽水域の塩性湿地に生息する傾向があります。大潮の満潮時には水につかることもありますが、主に植物の生えている地面の下や転石、枯れ草の間に生息しています。他の同所的な近縁種には、オカミミガイやナラビオカミミガイなどがあります。また、同じ生息環境には、フナムシやカニの仲間も見られます。

絶滅危惧種としての状況

キヌカツギハマシイノミガイは、日本の環境省によって絶滅危惧II類（VU）に指定されています。県別レッドリストでは、兵庫県では絶滅が確認され、愛知県などでは絶滅危惧I類に分類されています。海岸の埋立てや改修作業によって生息地が減少しており、環境の変化に敏感な貝類であるため、その保護が求められています。特に、日本では生息環境の変化が深刻で、個体数が減少しています。

参考文献

キヌカツギハマシイノミガイの情報は、主に文献に基づいており、特にプファイファーが1855年に発表した文献が有名です。これにより、シンガポール産の標本の記録が残されています。今後の研究によって、こうした巻貝の生息環境や行動に関するさらなる理解が期待されます。

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