キャピュシーヌ大通り (モネ)

キャピュシーヌ大通り：モネが描いたパリの喧騒

クロード・モネの代表作の一つに数えられる『キャピュシーヌ大通り』は、1873年から1874年にかけて制作された油彩画です。現在、世界に2点が存在し、それぞれネルソン・アトキンス美術館とプーシキン美術館に収蔵されています。この作品は、パリの活気に満ちた街並みを、モネ独特の視点と技法で捉えた、印象派を代表する重要な作品と言えるでしょう。

制作：ナダールのスタジオから見た街の風景

モネは、1873年、パリのキャピュシーヌ大通りにあった写真家ナダールのスタジオを借り、この絵画を制作しました。ナダールは当時、スタジオを移転しており、モネは旧スタジオを一時的に使用できたのです。窓から見える大通りの風景を、モネは熱心に観察しました。

絵画には、大通りを行き交う人々の群衆が描かれています。個々の人の姿は詳細に描かれておらず、黒い単純な筆触で、まるで奔流のように描かれています。モネが表現しようとしたのは、個々の人物ではなく、大通りの活気、人々の動き、そして街のエネルギーだったと言えるでしょう。ラフな筆触は、モネの躍動感あふれる制作過程を彷彿とさせ、絵画に独特の生命力を与えています。プーシキン美術館所蔵の作品には、画面の右端に通りを見下ろす2人の男性が描かれていますが、これはトリミングされた構図で、大通りを偶然の一瞬を切り取ったような印象を与えています。

第1回印象派展と発表：賛否両論を巻き起こした作品

1874年4月15日、モネら印象派の画家たちが「第1回展覧会」（後の「第1回印象派展」）を開催しました。会場は、モネが『キャピュシーヌ大通り』を制作したのと同じキャピュシーヌ大通り35番地のスタジオでした。モネは、この展覧会に『キャピュシーヌ大通り』を他の作品と共に発表しました。しかし、どちらの作品が展示されたのかについては、現在も議論が続いています。O. ReuterswärdとCh. Sterlingはプーシキン美術館所蔵の作品、ジョン・リウォルドはネルソン・アトキンス美術館所蔵の作品をそれぞれ支持しています。会場を訪れた人々は、窓から見える実際のキャピュシーヌ大通りとモネの絵画を比較しながら鑑賞したと言えるでしょう。

評価：革新と伝統のはざまで

『キャピュシーヌ大通り』は発表当時、賛否両論を巻き起こしました。保守的な批評家であるルイ・ルロワは、『ル・シャリヴァリ』紙で、絵画のラフな筆致を「黒いよだれのようなもの」と酷評しました。伝統的なアカデミズム絵画の観点からすれば、人体表現の不精さは許されませんでした。

しかし、エルネスト・シェノーは『パリ・ジュルナル』紙で、この絵画を高く評価しました。彼は、モネが「埃と光の中のおびただしい数の群衆の動き」、「道路の上の馬車と人々の雑踏」、「大通りの木々の揺れ」といった、捉えがたい運動の瞬間を描き出したと賞賛しました。これは、シャルル・ボードレールの「モダニテ」の概念に通じる評価と言えるでしょう。

作品の来歴：美術館への道のり

プーシキン美術館所蔵の『キャピュシーヌ大通り』は、1883年にジャン＝バティスト・フォールが所蔵した後、1907年にはポール・デュラン＝リュエル、モロゾフ家を経て、1948年にプーシキン美術館に収蔵されました。それぞれの所有者の変遷は、この絵画が美術史において重要な位置を占めていたことを示しています。

参考文献

島田紀夫『印象派の挑戦――モネ、ルノワール、ドガたちの友情と闘い』小学館、2009年
シルヴィ・パタン『モネ――印象派の誕生』創元社、1997年
六人部昭典『モネ――《睡蓮》への歩み』六耀社、2001年
吉川節子『印象派の誕生――マネとモネ』中央公論新社、2010年

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