キヤノン・アートラボ

キヤノン・アートラボ：テクノロジーとアートの融合を追求した実験工房

キヤノン・アートラボは、キヤノン株式会社が1990年から2001年まで展開した文化支援プログラムです。デジタルテクノロジーをアートに応用し、科学と芸術の融合による新たなアート領域の創出を目的とした実験工房として活動しました。このラボでは、アーティストとキヤノンのエンジニアが緊密に連携し、革新的な作品を制作し、国内外のメディアアートシーンにおいて先駆的な役割を果たしました。

活動内容

アートラボの活動は、主に以下の3つの柱で構成されていました。

1. アートラボ企画展: アーティストとエンジニアの共同制作による展覧会を年1、2回開催しました。デジタルテクノロジーを駆使した新しい表現を探求し、制作された作品は国内外を巡回しました。
2. アートラボ・プロスペクト展: 海外の先駆的なアート作品を紹介し、マルチメディア時代の可能性を提示しました。
3. 技術・機器サポート: アーティストに対して、キヤノンのカラー複写機やフィルムスキャナーなどの機器利用機会を提供し、作品制作を支援しました。

キュレーターの阿部一直氏と四方幸子氏の指揮のもと、招聘されたアーティストとキヤノン内部のエンジニアが協同し、作品に使用する技術そのものを開発するワーク・イン・プログレス形式で作品制作が行われました。東京・六本木には事務局と専任のキヤノンエンジニアが常駐する「ファクトリー」があり、展覧会は作品の内容に応じて都心の様々なスペースを借りて開催されました。

主要な展覧会

アートラボでは、以下のような特徴的な展覧会が開催されました。

アートラボ企画展: デジタルテクノロジーを積極的に取り入れ、新しい表現を追求する国内外のアーティストとキヤノンのエンジニアが約1年かけて共同で作品を制作し、展覧会で発表しました。作品は、その後もバージョンアップを重ね、国内外の展覧会で展示されました。
アートラボ・プロスペクト展: オリジナルの作品制作に限定せず、独自の視点に基づいたキュレーションによって、多様化するマルチメディア時代の新しいアート作品を紹介しました。

出版物

アートラボは、活動の記録として、以下の出版物を発行しました。

ARTLAB Concept Book: アートラボの活動開始時に発行されたコンセプトブック。
雑誌「NeN(New Environment)」: 最初の2年間に2冊発行された雑誌。
アートラボ企画展カタログ: 第8回企画展までのカタログ（第5回企画展を除く）と、オープンコラボレーション展のカタログ。
Partners of Forerunners: 2000年に刊行された、キヤノンの文化支援活動を紹介する書籍。写真新世紀とともに、アートラボの活動が紹介されています。これらの出版物はすべて非売品でした。

トークイベント

アートラボは、展覧会開催時にシンポジウムやトークイベントを開催しました。1991年の第1回企画展開催時には、「デジタル・アートの環境と未来」と題したシンポジウムが開催され、伊藤俊治氏、奥出直人氏、オットー・E・レスラー氏、フィリップ・ケオ氏、藤幡正樹氏がパネリストとして登壇しました。その他、展覧会場やアートラボのスペースで、アーティストや専門家を招いたトークやイベントも開催されました。

展覧会履歴（一部抜粋）

アートラボ第1回企画展「ARTLAB」(1991) : コンプレッソ・プラスティコ、中原浩大、福田美蘭
アートラボ第2回企画展「ARTLAB2」(1992) : ヘラルド・ファン・ダー・カープ、ミッション・インヴィジブル
アートラボ・オープン・コラボレーション展「PSYCHOSCAPE - アートからの精神観測」(1993) : Boulbous Plants、DTI (Digital Therapy Institute)、本木秀明
アートラボ第3回企画展「パーセプチュアルアリーナ - 空間のパラドックス」(1993) : ウルリーケ・ガブリエル
アートラボ第4回企画展「LOVERS - 永遠の恋人たち」(1994) : 古橋悌二
アートラボ第1回プロスペクト展「TERRAIN [テライン]」(1995) : ウルリーケ・ガブリエル
アートラボ第5回企画展「Molecular Clinic [モレキュラークリニック] 1.0 On the Internet」(1995) : 三上晴子
アートラボ第6回企画展「Molecular Informatics [モレキュラーインフォマティクス] - 視線のモルフォロジー」(1996) : 三上晴子
アートラボ第2回プロスペクト展「Virtual Cage [ヴァーチャル・ケージ]」(1997) : クリスティアン・メラー
アートラボ第7回企画展「IO_DENCIES [テンデンシーズ] - 情報からの都市への問い」(1997) : ノウボティック・リサーチ（KR+cF）
アートラボ特別展「LOVERS / frost frames」(1998) : 古橋悌二／高谷史郎
アートラボ第8回企画展「SoundCreatures [サウンドクリーチャーズ]」(1998) : 江渡浩一郎
アートラボ第3回プロスペクト展「ウルティマ・ラティオ - 物語のカスケード」(1999) : ダニエラ・アリーナ・プレーヴェ
アートラボ第9回企画展「分離する身体」(1999) : 関口敦仁
アートラボ第4回プロスペクト展「DRIVE [ドライヴ]」(2000) : ジョーダン・クランダル
アートラボ第10回企画展「polar [ポーラー] 」(2000) : カールステン・ニコライ＋マルコ・ペリハン
アートラボ第5回プロスペクト展「R111 - 仮想から物質へ」(2001) : ミヒャエル・サウプ＋supreme particles

受賞歴

アートラボの活動は、数々の賞を受賞しました。

企業メセナ大賞 '96 審査員特別賞 (1996)
古橋悌二「LOVERS」（第4回企画展作品）がニューヨーク近代美術館（MoMA）に収蔵 (1998)
ノウボティック・リサーチ（KR+cF）「IO_DENCIES」（第7回企画展作品）がPrix Ars Electronica 98 ネット部門のGolden Nica賞を受賞 (1998)
江渡浩一郎「SoundCreatures」（第8回企画展作品）がPrix Ars Electronica 99 インタラクティブ・アート部門に入賞 (1999)
カールステン・ニコライ＋マルコ・ペリハン「polar」（第10回企画展作品）がPrix Ars Electronica 2001 インタラクティブ・アート部門のGolden Nica賞を受賞 (2001)

外部リンク

キヤノン・アートラボ： artscape Artwords
V2_Organsation
* Prix Ars Electronica

キヤノン・アートラボは、テクノロジーとアートの融合を追求し、新たな表現領域を切り開いた先駆的な活動でした。その功績は、今日のメディアアートシーンにも大きな影響を与え続けています。

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