キュベレ崇拝のローマ到来

盛期ルネサンスの巨匠、アンドレア・マンテーニャが1505年から1506年にかけて制作した『キュベレ崇拝のローマ到来』は、テンペラ画による歴史的な作品です。この絵画は、ローマが第二次ポエニ戦争中にプリュギアの女神キュベレの信仰を受け入れたという重要な出来事を描いています。

主題の背景

紀元前3世紀、ローマはカルタゴの名将ハンニバル率いる軍勢の侵攻に苦しんでいました。カンナエの戦いで壊滅的な敗北を喫した後、ローマは長期戦に持ち込み、カルタゴ本国からの補給路を断つ戦略を取りました。この時期、ローマは『シビュラの書』から、外敵を退けるためにキュベレ信仰を導入すべきだという神託を受けます。デルポイの神託も、キュベレの神像を受け取るのにふさわしい人物を派遣するようにと告げました。

前203年、ローマはプブリウス・コルネリウス・スキピオ・ナシカを中心とする使節団をペルガモン王国に派遣し、キュベレの御神体である黒い隕石をローマに運ぶ許可を得ます。キュベレの神像はオスティアに到着し、スキピオ・ナシカは女神を迎えるために多くの婦人を連れて出向きます。神像はパラティーノの丘に神殿が完成するまで、ウィクトーリア女神の神殿に安置されました。この後、ローマはハンニバルをイタリアから追放し、翌年にはカルタゴを征服することに成功します。

制作経緯

この作品は、ヴェネツィア出身の枢機卿フランチェスコ・コルナールの宮殿を飾るために発注された連作の一部でした。他の作品としては、『トゥッキア』と『ソフォスニバ』が挙げられます。マンテーニャはマントヴァの宮廷画家であったため、マントヴァ侯爵フランチェスコ2世・ゴンザーガの許可を得て制作に取り組みました。各絵画の主題は古典籍に基づいており、コルナーロ家の祖である古代ローマのプブリウス・コルネリウス・スキピオ・ナシカとコルネリウス氏族を称えるものでした。マンテーニャは当初の合意よりも多くの報酬を要求しましたが、1506年に亡くなったため、完成したのは本作品のみでした。その後、コルナーロはジョヴァンニ・ベリーニにも制作を依頼しました。

作品の詳細

マンテーニャは、ローマに到着したキュベレとその行列を描いています。画面左には神官たちが運ぶ御神体が、中央にはスキピオ・ナシカと元老院議員たちが配置されています。御神体は球体の石であり、女神の胸像が添えられています。女神像は要塞の城壁のような王冠を戴いています。御神体を乗せた輿は、ラテン語の碑文が刻まれた2つのモニュメントの間を通過しています。これらのモニュメントは、スキピオ・ナシカの父と叔父の墓、そしてコルネリウス氏族の墓を表しています。

画面手前でひざまずき、両手を上げている女性は、クラウディア・クィンタであると考えられています。彼女は女神のローマ招来に貢献した女性として知られています。スキピオ・ナシカは彼女に手を差し伸べつつ、キュベレを見上げています。画面右端の階段は、スキピオの邸宅を示しています。スキピオはキュベレの神像を自身の邸宅に一時的に安置しました。

作品には「S HOSPES NUMINIS IDAEI C」という碑文が記されています。これは、「イダ山の神をもてなす主人」という意味で、スキピオがキュベレを饗応したことを示しています。また、文頭と文末の「SC」は、Senatus Consulto（上院の許可を得て）の略です。

マンテーニャは、この作品を大理石の彫刻のように描いています。人物の衣服の襞には白いハイライトが加えられ、石のような硬質な印象を与えています。しかし、身振りや表情は彫刻よりも劇的かつ繊細に描かれており、絵画の優位性を主張していると言えます。この作品は、古代彫刻のフリーズを模した連作の一部になるように意図されており、低い視点から描かれていることから、高い場所に設置されることを想定していたと考えられます。

来歴

マンテーニャの死後、絵画は一時的にマントヴァの司教によって私物化されましたが、後に正当な所有者に返還されました。コルナーロはヴェネツィアに複数の邸宅を所有していたため、絵画が設置された場所は不明です。19世紀初頭には、サン・ポーロのコルナーロ宮殿に存在した記録があり、その後、ジョージ・ヴィヴィアンによって購入されました。1873年にはヴィヴィアンの息子によって、1500ポンドでロンドンのナショナル・ギャラリーに売却され、現在に至ります。

まとめ

『キュベレ崇拝のローマ到来』は、歴史的な出来事を背景に、アンドレア・マンテーニャの卓越した芸術的才能が発揮された作品です。古代ローマの文化と宗教、そしてルネサンス期の芸術が融合したこの絵画は、見る者に深い感動を与えます。

ギャラリー

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参考文献

エットーレ・カメザスカ『マンテーニャイタリア・ルネサンスの巨匠たち17』塚本博訳、東京書籍（1993年）
オウィディウス『祭暦』高橋宏幸訳、国文社（1994年）
小川英雄『ローマ帝国の神々光はオリエントより』中公新書（2003年）
『西洋絵画作品名辞典』黒江光彦監修、三省堂（1994年）

外部リンク

* ナショナル・ギャラリー公式サイト, アンドレア・マンテーニャ『キュベレ崇拝のローマ到来』

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