キュリロス (スラヴの（亜）使徒)

キュリロスとは

キュリロス（827年 - 869年2月14日）は、中世東ローマ帝国の知識人、キリスト教の修道士、そして神学者として知られています。彼は、教会スラヴ語やブルガリア語では「哲学者コンスタンティン＝キリル」、ロシア語では「哲学者キリル」などとも呼ばれ、正教会、カトリック教会、聖公会、ルーテル教会で聖人として崇敬されています。同時代の文献では、「哲学者コンスタンティノス」として言及されることもあります。

キュリロスは、グラゴル文字の考案者として歴史に名を刻んでいます。かつてはキリル文字の考案者とも考えられていましたが、現在ではキリル文字は後世に作成されたとされています。また、モラヴィアの主教に任じられたという説もありますが、その歴史的信憑性は低いとされています。

生涯

キュリロスは、テッサロニキの裕福な軍人の家庭に生まれました。元の名はコンスタンティノスといいました。コンスタンティノープルで哲学を学び、卒業後に修道士となり、「キュリロス」という名で知られるようになりました。彼はコンスタンティノープルの大学で教鞭を執り、ギリシア語だけでなく、ラテン語やヘブライ語にも精通した文献学者として、またユダヤ教やイスラム教を理解し、それらに対する反駁書を著す哲学者としても名を馳せました。

9世紀後半、東ローマ帝国がモラヴィア王ラスチスラフからのキリスト教宣教師派遣の要請を受けると、キュリロスは兄のメトディオスと共にモラヴィアへ派遣されました。二人はラスチスラフをはじめとするモラヴィア王家の面々に洗礼を授け、キリスト教に改宗させました。さらに、キュリロスは新たに考案したグラゴル文字を用いて、古代教会スラヴ語への聖書翻訳を行い、スラヴ世界におけるキリスト教伝道に大きく貢献しました。この功績から、キュリロスとメトディオス兄弟は「スラヴの（亜）使徒」と称えられ、スラヴ圏のキリスト教会で篤く崇敬されています。

867年、兄弟はローマ教皇ニコラウス1世によってローマに招かれました。当時、モラヴィアの管轄権や、彼らが翻訳したスラヴ語聖書を用いた奉神礼の妥当性をめぐり、ザルツブルク司教ティトマールとの間で論争が起こっていました。キュリロスとメトディオスは聖クレメンスの聖遺物を携え、弟子たちと共にローマへ向かいました。

868年、ローマに到着した二人は、その学識と温雅な人柄からローマの人々に賞賛されました。教皇アドリアヌス2世は二人を支持し、モラヴィアでの伝道を許可するとともに、スラヴ語による奉神礼を公式に認めました。しかし、キュリロスは同年末に病に倒れ、静養のために修道院に入り、その50日後、869年2月14日に生涯を閉じました。

キュリロスの死後、モラヴィアへの伝道とスラヴ語奉神礼の整備は、兄メトディオスとオフリドのクリメントら弟子たちに引き継がれました。彼らが翻訳した古代教会スラヴ語の聖書と祈祷書は、正教会を中心に、一部の地域では現在も使用されています。しかし、メトディオスらのモラヴィア布教は、最終的には東フランク王国からの圧力を受け、失敗に終わりました。モラヴィアはローマ典礼（ラテン典礼）を受容し、後にカトリック圏へと入っていきました。

影響と崇敬

キュリロスは、正教会とカトリック教会の両方で、スラヴ語圏を中心に広く崇敬されています。スロバキア共和国憲法では、前文に「キリルとメトディの伝えた精神…を忘れることなく」と謳われています。

正教会では古くから聖人として尊ばれ、「スラヴの亜使徒」と呼ばれています。カトリック教会では、1880年に兄メトディオスと共に列聖されました。

記念日（記憶日）は、カトリックでは2月14日、正教会では5月11日です。また、兄メトディオスと共通の記念日もあります。記念日のうち、7月5日はチェコで公休日となっています。スロバキアでは、1993年から2009年のユーロ導入まで流通していた50コルナ紙幣に、メトディオスと共に肖像が使用されていました。

チェコスロヴァキア正教会には、聖ツィリル・メトデイ正教大聖堂があり、キュリロスとメトディオスが記憶されています。この大聖堂は、第二次世界大戦時にラインハルト・ハイドリヒ暗殺の実行者たちの最期の場所ともなりました。

関連文献

木村彰一、岩井憲幸「<翻訳>コンスタンティノス一代記 : 訳ならびに注(1)」『スラヴ研究』第31巻、北海道大学スラブ研究センター、1984年、1-17頁
佐藤昭裕「『過ぎし年月の物語』の文体と『コンスタンティノス伝』『メトディオス伝』の言語 : 対照研究の試み」『京都大學文學部研究紀要』第47号、京都大學大學院文學研究科・文學部、2008年3月、1-82頁

外部リンク

亜使徒メフォディイ及びキリルの祭日（正教会の祈祷書）
「教皇ベネディクト十六世の182回目の一般謁見演説」カトリック中央協議会、司教協議会秘書室研究企画訳、2009年6月18日。
* 聖人カレンダー 7月7日 聖キュリロス/聖メトディオス、女子パウロ会

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