キリスト (オラトリオ)

フランツ・リスト作曲 オラトリオ『キリスト』（Christus）

フランツ・リストが作曲した3つのオラトリオのうち、1866年に完成した第2作目が『キリスト』です。この作品は聖エリーザベトの伝説を描いた先行するオラトリオに続いて書かれました。キリストの誕生から受難、そして復活というイエス・キリストの生涯を聖書を原典として壮大に描き出しています。同じくキリストの生涯を扱ったヘンデルのオラトリオ『メサイア』は、旧約聖書の預言を通して間接的な描写を多用しているのに対し、リストの『キリスト』は福音書の記述をより直接的に音楽へと反映させている点が特徴です。

概説と作曲背景

本作のテクストは主に聖書とカトリックの典礼から取られています。リストは、活発な創作活動を行ったワイマール時代を経て、1861年にローマへ移住しました。その後の約10年間は、彼の作品のほとんどが合唱を伴う宗教音楽に費やされており、本作もこの時期（1862年から1866年）にローマで作曲されました。ローマでの滞在は作品に強い影響を与え、随所にグレゴリオ聖歌風のコラールが用いられており、これは合唱パートだけでなく独唱のレチタティーヴォにも及んでいます。楽譜自体は1866年9月末に完成しましたが、リスト自身が細部の修正を望んだため、最終的な完成は同年12月となりました。出版は1872年、初演は翌1873年5月29日にワイマールのプロテスタント教会で行われています。

演奏規模と編成

『キリスト』は全3部で構成されており、演奏時間は約2時間40分とかなりの長さになります（第1部約60分、第2部約45分、第3部約55分）。この作品は非常に大規模なオーケストラと声楽陣を必要とするため、今日のコンサートホールで全曲が演奏される機会は必ずしも多くありません。

必要な楽器編成は以下の通りです。

オーケストラ: フルート3（うち1はピッコロ持ち替え）、オーボエ2（うち1はコーラングレ持ち替え）、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ（4個）、大太鼓、シンバル、鐘、ハープ、オルガンまたはハルモニウム、弦五部。
声楽陣: 独唱（ソプラノ、メゾソプラノ、アルト、テノール、バリトン、バス）、4部混声合唱。

リストは、従来のバロックや古典派のオラトリオにおいて合唱が中心的な役割を担っていたのに対し、『キリスト』ではオーケストラの役割をより重視しました。彼は、オーケストラこそが楽曲全体の成長と発展の推進力であると考え、解説的な機能や豊かな和声的テクスチャーを提供しています。楽譜には、描かれている情景や感情的・宗教的な意味合いを説明するように、ラテン語のパッセージが定期的に注釈として加えられています。

楽曲構成

作品は以下の3つの部に分かれています。

第1部 クリスマス・オラトリオ

キリストの誕生にまつわる出来事が描かれます。約18分の序奏は明るく牧歌的な雰囲気で始まります。「パストラーレと受胎告知」では、オーケストラに乗って天使が羊飼いにキリストの誕生を告げる様子が歌われます。「輝かしき聖母は佇み」では、マリアが幼子イエスを見つめる様をラテン語の賛美歌で表現します。「飼い葉桶の羊飼いの歌」では、オーボエなどの穏やかな旋律で牧歌的な雰囲気が高まります。締めくくりの「東方三博士」は、静かに始まりフルオーケストラへと発展する壮大な行進曲で、第1部を壮大かつ楽観的に終結させます。

第1曲 序奏
第2曲 パストラーレと受胎告知
第3曲 輝かしき聖母は佇み
第4曲 飼い葉桶の羊飼いの歌
第5曲 東方三博士

第2部 公現の後で

キリストの公生活における出来事を扱います。「真福八端」で静かに始まりますが、この曲は1855年に書かれたものをオラトリオに組み込んだものです。合唱とオルガンのための「主の祈り」も同様に瞑想的で憂鬱な雰囲気を持っています。続く「教会の創立」は対照的に断固とした響きを持ちます。「奇蹟」では、ガリラヤ湖上を歩くキリストの場面がオーケストラの描写を中心に展開されます。嵐の描写を経て、イエスが嵐を鎮めることで静かに終わります。最後の「イェルサレムへの入場」は、ソリスト、合唱、オーケストラが一体となって輝かしいクライマックスを築き、第2部を締めくくります。

第6曲 真福八端
第7曲 主の祈り
第8曲 教会の創立
第9曲 奇蹟
第10曲 イェルサレムへの入場

第3部 受難と復活

キリストの受難、死、そして復活を描きます。冒頭の「我が魂は憂い」は陰鬱で痛みに満ちた楽章です。続く「悲しみの聖母は佇み」は、古代ラテン語の賛美歌に基づき、約30分と全曲中で最も長く、全ての編成を用いて歌われます。これは、息子キリストの死を見守る聖母マリアの深い悲しみを表現しており、一般的なオラトリオが受難を比較的短く扱うのとは対照的です。終盤に向けて音楽は情熱的に高揚し、復活への希望を予感させます。短い「おのこよ、おみなよ」は、この長い楽章と対照をなし、ハルモニウムと女性合唱のみによる明るく期待に満ちた曲で、墓が空になったマグダラのマリアの驚きを描きます。オラトリオの締めくくりは「復活」であり、全オーケストラと合唱による歓喜に満ちた音楽でキリストの復活を祝います。「キリストはよみがえられた！」という力強い宣言で作品は幕を閉じます。

第11曲 我が魂は憂い
第12曲 悲しみの聖母は佇み
第13曲 おのこよ、おみなよ
第14曲 復活

もう一度検索