キリストの哀悼 (ファン・デル・ウェイデンの絵画)

ロヒール・ファン・デル・ウェイデン『キリストの哀悼』：初期フランドル派の深遠な表現

ロヒール・ファン・デル・ウェイデンによる『キリストの哀悼』（1460-1463年頃制作）は、初期フランドル絵画の最高傑作の一つとして、フィレンツェのウフィツィ美術館に収蔵されています。この作品は、キリストの死後、遺体を墓に納める場面を描写しており、聖母マリアを始めとする数多くの人物が深い悲しみに包まれています。

メディチ家との繋がりと作品の歴史

『キリストの哀悼』の来歴は、1492年のロレンツォ・デ・メディチの遺品目録に「5人の人物とキリストの埋葬場面を描いた祭壇画」として記録されていることから始まります。その後、メディチ家の別荘であるカレッジのメディチ邸に飾られていたと考えられています。この作品は、メディチ家がファン・デル・ウェイデンに依頼した絵画の一つで、同時期に制作されたシュテーデル美術館所蔵の『メディチの聖母』と共に、ファン・デル・ウェイデンが1450年頃にイタリアを訪れた際に制作された可能性が高いとされています。

しかしながら、その来歴は必ずしも明らかではなく、フェラーラ侯爵リオネッロ・デステの依頼による三連祭壇画の一部だったという説や、ジョルジョ・ヴァザーリによってハンス・メムリンクの作品と誤認されたという説も存在します。1666年には、枢機卿カルロ・デ・メディチの所有を経てウフィツィ美術館に移され、その後もアルブレヒト・デューラーの作品と誤認されるなど、波乱に満ちた歴史を辿っています。1992年の調査で下絵が発見され、ようやくファン・デル・ウェイデンの作品であると確認されました。

フラ・アンジェリコとの比較と絵画的特徴

『キリストの哀悼』は、フラ・アンジェリコの『キリストの埋葬』（サン・マルコの祭壇画の一部）と構成が酷似しており、ファン・デル・ウェイデンのイタリア巡礼とフィレンツェ訪問の証拠となっています。バルトロメオ・ファツィオの『偉人伝』にも、このイタリア訪問の記録が残されています。しかし、ファン・デル・ウェイデンの作品はフラ・アンジェリコの作品よりも複雑で、人物の数も多く、より写実的で感情表現豊かな描写が特徴です。幾何学的な図案化が少ない分、人物の表情や感情が細やかに表現されており、初期フランドル派特有の油彩技法による深みのある色彩と、細部まで緻密に描き込まれた表現が、作品に深みとリアリティを与えています。

作品の内容と解釈

画面の中央には、聖母マリアと洗礼者ヨハネに抱かれたキリストの遺体が描かれています。キリストの遺骸はアリマタヤのヨセフとニコデモによって支えられており、これらの聖人はそれぞれコジモ・デ・メディチとファン・デル・ウェイデンの肖像画であるという説もあります。キリストの足元には、香油壷を抱えてひざまずくマグダラのマリアの姿が見られます。

全体として、『キリストの哀悼』はキリストの死という悲劇的な出来事を、深い悲しみと感情を込めて表現した作品です。細部に至るまで丁寧に描き込まれた人物描写と、油彩技法ならではの豊かな色彩は、見る者に強い衝撃と感動を与え、初期フランドル絵画の最高峰の一つとしての地位を確固たるものとしています。様々な解釈が可能な作品であり、美術史研究においても重要な位置を占めています。

参考文献

Campbell, Lorne (2004). Van der Weyden. London: Chaucer Press. ISBN 1-9044-4924-7

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