キリスト昇架 (レンブラント)

レンブラント・ファン・レイン作『キリスト昇架』：17世紀オランダ絵画の金字塔

17世紀オランダ黄金時代の巨匠、レンブラント・ファン・レインが1633年に制作した油彩画『キリスト昇架』（Die Kreuzaufrichtung）は、キリストの受難を描いた力強い作品として知られています。この絵画は、オラニエ公フレデリック・ヘンドリックからの委嘱によるもので、対となる『キリスト降架』と共に、イエス・キリストの受難をテーマとする連作の一部を成しています。

アムステルダムに移住したレンブラントは、この歴史画でオラニエ公からの信頼を得ます。1636年の手紙によると、レンブラントは『キリストの埋葬』、『キリストの復活』、『キリストの昇天』といった作品と共に、『キリスト昇架』と『キリスト降架』を制作しました。これらの作品は現在、ミュンヘンのアルテ・ピナコテークに収蔵されています。

しかし、これらの作品群が福音書の記述に従って制作されたわけではない点が興味深いです。『キリスト降架』が1633年に完成したのに対し、『東方三博士の礼拝』という連作の最終作品は1646年まで制作されませんでした。このことから、当初はオラニエ公からの直接の注文ではなく、レンブラント自身の構想に基づいて制作された可能性が高いと考えられます。

『キリスト昇架』は、1915年に美術史家ホフステーデ・デ・フロートによって詳細に分析され、その芸術的価値が改めて注目されました。それ以前にも、1836年に美術史家ジョン・スミスが作品について記述を残しています。これらの分析は、絵画の制作過程や、レンブラントの技法についての貴重な情報を提供しています。

この絵画の着想や制作過程については、現在も美術史家の間で議論が続いています。しかし、その圧倒的な表現力と、レンブラント特有の光と影の使い方は、多くの鑑賞者を魅了し続けています。力強い構図と、人物の感情を繊細に表現した筆致は、この絵画が単なる宗教画にとどまらず、人間の苦悩と信仰を深く探求した作品であることを示しています。

また、この作品は、レンブラントのキャリアにおける重要な転換期を示すものと言えるでしょう。アムステルダムでの最初の歴史画というだけでなく、後に続く彼の宗教画、そして肖像画へとつながる重要なステップとなったと考えられます。宗教的テーマを扱いながらも、それにとらわれず、人間の普遍的な感情を表現しようとするレンブラントの姿勢は、この作品に深く刻み込まれています。

今日でも、『キリスト昇架』は、17世紀オランダ絵画の最高傑作の一つとして高い評価を受けています。その圧倒的な表現力と、レンブラントの芸術家としての才能を垣間見ることができる作品として、美術史において重要な位置を占めています。ミュンヘンのアルテ・ピナコテークで、その実物を鑑賞できることは、美術愛好家にとって大きな喜びとなるでしょう。

参考文献
C.H.Beck『アルテ・ピナコテーク　ミュンヘン』、Scala Pulblishers、2002年刊行
マリエット・ヴェステルマン『岩波　世界の美術　レンブラント』高橋達史訳、岩波書店、2005年刊行
* 井上靖・高階秀爾編集『カンヴァス世界の大画家 16 レンブラント』、中央公論社、1982年刊行

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