キリノミタケ

キリノミタケ（Chorioactis geaster）

キリノミタケは、子嚢菌門チャワンタケ綱に属し、チャワンタケ目キリノミタケ科に分類される珍しいキノコです。その特徴的な形態と限られた分布域から、注目を集めています。

形態

キリノミタケの子実体は、幼いときは球状ですが、成長するにつれて倒涙滴形または倒卵形になります。表面はくすんだ赤褐色から灰褐色で、微毛に覆われてビロードのような質感を持っています。高さは5～7cm程度です。

成熟すると、子実体の先端から4～7枚に裂開し、星形になります。裂片は大きく反り返り、全体の直径は10～12cmにもなります。子実層は橙褐色から淡赤褐色で、無数の子嚢と側糸で構成されています。

子嚢は細長い円筒状で、先端に蓋を備えています。内部には8個の胞子を形成します。胞子は紡錘状で、表面は滑らかです。側糸は薄壁で、成熟すると数珠状になります。子実体の内部は、不規則に絡み合った無色の菌糸で構成されています。

キリノミタケには、アナモルフ（無性世代）として知られる Kumanasamuha geaster が存在します。このアナモルフは、特定の培地上で培養することで、葉の表面に黒褐色の集落を形成します。集落はビロード状で、分生子を形成します。分生子は卵状または楕円体状で、暗褐色かつ薄壁で、表面には粗大なイボがあります。

生態

キリノミタケは、北アメリカではニレ属、日本ではハイノキ、イチイガシ、ツクバネガシなどの倒木や切り株の周囲に発生します。子実体の発生時期は、北アメリカでは10月から翌年4月、日本では10月上旬から11月下旬です。子実体の形成は、5～6月の降水量に影響を受けると考えられています。

キリノミタケが発生した木材は黒変し、非常に硬くなります。菌糸は木材の導管に侵入し、木材細胞を徐々に分解すると考えられています。アナモルフの K. geaster は、主に初夏と晩秋に、キリノミタケが発生した木材の表面に現れます。

子実体の成熟と裂開には時間がかかり、裂開が完了するまで約2時間半、その後、子実体の収縮や子実層の変色が起こり、最終的に消滅します。成熟した子実体から放出された胞子は、風に乗って周囲に拡散します。

日本のキリノミタケの胞子は、一般的な培地上で発芽させることができますが、北米産のものについては培養が成功していません。

分布

キリノミタケは、現在までに北アメリカと日本でのみ確認されています。北米の基準産地はテキサス州オースチンですが、タイプ標本は所在不明です。日本では、1937年に宮崎県で初めて発見されました。分子時計の解析によると、北米と日本の集団が分かれてから、少なくとも1900万年以上経過しているとされています。

分類上の位置づけ

キリノミタケは、当初はエツキクロコップタケ属に分類されていましたが、子実体の構造や胞子などの特徴から、新属 Chorioactis が設立されました。その後、クロチャワンタケ科から除外され、ベニチャワンタケ科に分類されましたが、さらに、子嚢の壁の構造や胞子の特徴から、独立したキリノミタケ科が設立されました。キリノミタケ科は、キリノミタケ属の他に、マツバノヒゲワンタケ属など3属を含んでいます。

類似した分類群

キリノミタケに似たキノコはほとんどありません。クロチャワンタケ科のキツネノサカズキは、子実体の形がやや似ていますが、裂片が短く、子実体の構造や胞子の特徴が異なります。キツネノサカズキは、針葉樹から発生し、日本特産種です。

和名と英名

和名の「キリノミタケ」は、未裂開の子実体がキリの実に似ていることに由来します。英名は、テキサス州オースチンで「Devil's Cigar（悪魔の葉巻煙草）」と呼ばれています。

保護状況

キリノミタケは、非常に偏った分布を示すため、日本では環境省のレッドデータブックで絶滅危惧I類に指定されています。また、宮崎県でも同様に絶滅危惧I類に指定されています。しかし、具体的な保護対策は特に講じられていません。アメリカのテキサス州では、州のキノコに指定しようとする動きがありましたが、否決されました。

脚注

キリノミタケは、その独特の形態と希少性から、研究者やキノコ愛好家の間で注目されています。今後の保護活動と研究の進展が期待されます。

外部リンク

キリノミタケ Chorioactis geaster（奈良県産） －きのこ雑記．
キツネノサカズキ Galiella japonica（千葉県産） －KinokoLabo．
* キツネノサカズキ Galiella japonica（兵庫県産） －但馬変人倶楽部-但馬の自然-．

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