ツクバネガシ

ツクバネガシ（衝羽根樫）について

ツクバネガシ（学名: Quercus sessilifolia）は、ブナ科コナラ属に分類される常緑高木です。別名として雲山青岡とも呼ばれ、日本を含む東アジア地域に広く分布しています。その特徴的な生態や、人間との関わりについて詳しく見ていきましょう。

形態

ツクバネガシは、常緑広葉樹の高木で、樹高は20メートルを超えることもあります。樹皮は暗灰褐色で、若い木では滑らかですが、成長するにつれて不規則に剥がれるようになります。一年枝には初め毛がありますが、次第に無毛となります。

葉は革質で幅広い披針形をしており、葉柄は短く、表面は光沢のある深緑色、裏面はやや薄い緑色です。葉の縁には鋸歯が少なく、先端部にのみ見られます。また、芽が伸びた後に残る鱗片が葉の付け根にしばらく付着しているのが特徴的です。

花期は5月で、雌雄同株です。雄花は黄褐色の花が多数垂れ下がって咲き、雌花は葉腋に直立して3～4個の花をつけます。果実はドングリとして知られる堅果で、翌年の秋に成熟します。冬芽は長楕円形で鈍い稜があり、多数の鱗片に包まれています。

生態

ツクバネガシは、他のブナ科樹木と同様に、菌類と共生する菌根を形成しています。この共生関係は、樹木が菌類から栄養分の吸収を助けられ、菌類が樹木の光合成産物を分け与えられるという、相互に利益をもたらす関係です。菌根は、土壌中で他の個体や植物とつながるネットワークを形成していると考えられています。ただし、アカマツとの菌根では、地下部の成長を促進する一方で、地上部の成長を抑制するという報告もあります。また、スギやニセアカシアとの混生や、土壌の富栄養化は菌根に影響を与えることが知られています。

花は地味で、花粉は風によって運ばれる風媒花です。一見すると原始的な形質に見えますが、ブナ科やイネ科では、進化の過程でこの形質を獲得したと考えられています。

ドングリは重力によって散布されますが、動物も重要な役割を果たします。カシのドングリは渋くて食べにくいですが、ツキノワグマやイノシシは唾液中の成分でタンニンを中和することができます。また、ネズミはドングリを地中に埋める貯食行動を通じて、発芽を促進します。ドングリを食べるか貯食するかは周囲の環境によって左右されます。また、ネズミはドングリのタンニンに対する耐性を徐々に獲得していくことがわかっています。

カシの定着には、ネズミの他にもカケスが関与している可能性も指摘されています。

近年、菌根、風媒花、種子散布という3つの要素が連携して進化してきたのではないかという説が提唱されています。これらの形質は、同種が密集しているほど有利に働くと考えられています。

ドングリは昆虫の食害も受けやすく、シギゾウムシやハマキガなどの幼虫が内部を食害することがあります。しかし、虫害を受けても完全に死なずに発芽することもあり、またネズミは虫害を受けているドングリも食べる場合があります。ドングリは秋に地上に落ちるとすぐに根を伸ばし、春に本葉を展開します。発芽様式は形態節と呼ばれるもので、子葉は地中のドングリ内に残ります。ネズミは子葉目当てにドングリを掘り起こして捕食することがあり、初夏までの死因の多くはこれによるものです。

種子は落下後すぐに根を伸ばすため、埋土種子は形成しないと考えられています。耐陰性の高い実生を地上に大量に用意し、ギャップの形成を待つという陰樹の特徴を持っています。耐乾性があり尾根筋にも定着できますが、条件の良い谷筋で優勢な群落を形成することが多いです。また、アラカシとは異なり、石灰岩質の土壌を嫌います。

ナラ枯れ

ツクバネガシを含むブナ科の樹木は、「ナラ枯れ」と呼ばれる病気によって枯れることがあります。これは、カシノナガキクイムシという昆虫が媒介する菌類が原因で発生する感染症です。ミズナラやコナラは特に感受性が高く、全国的に被害が拡大しています。また、マツ材線虫病やナラ枯れの蔓延により、関東地方以西では、アカマツやコナラの林からシイやカシの林へと植生遷移が急速に進んでいる地域もあります。ニホンジカの捕食圧も影響していると考えられており、シカが嫌う植物や母数の多い植物が優勢になる傾向があります。

分布

ツクバネガシは、宮城県、富山県以西の本州、四国、九州に分布し、台湾にも生育しています。

人間との関係

ツクバネガシの木材は、非常に硬く重いことで知られています。気乾比重は平均0.9程度で、成長の良い木ほど硬く重くなります。道管の配置は放射孔材と呼ばれ、年輪は目立ちません。辺材と心材の区別も不明瞭です。柾目にはトラのような模様（杢）が現れ、美しいと評価されます。この模様は、虎斑や銀杢とも呼ばれます。また、板目面にはカシメと呼ばれるゴマ状の模様が見られます。乾燥は難しく反りやすいという性質があります。

萌芽力が非常に高く、何度も収穫できることから、燃料用として利用されてきました。また、器具材やシイタケの原木などにも使われています。

天然記念物

ツクバネガシは、各地で天然記念物に指定されています。例えば、奈良県上北山村の水分神社境内にあるシシンラン群落（ツクバネガシに着生）は国指定の天然記念物です。その他にも、広島県、山梨県、栃木県など、多くの都道府県や市町村で指定されているものがあります。

分類学上の位置づけ

コナラ属内の分類は、従来、殻斗の模様によってコナラ亜属とアカガシ亜属に分けられていましたが、遺伝子的な系統に基づく分類も提唱されています。ツクバネガシは、アカガシとの交雑種であるオオツクバネガシも知られています。

参考文献

鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽：四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社、2014年

外部リンク

国立科学博物館の標本・資料統合データベース

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