キロン・ケール

キロン・ケール

キロン・ケール（Kirron Kher、1952年6月14日 - ）は、インドを代表する女優の一人であり、近年は政治家としてもその手腕を発揮しています。ヒンディー語映画を中心に活躍し、その深みのある演技は高く評価されています。政治の舞台では、インド人民党に所属し、チャンディーガル選挙区から下院議員に選出され、二期務めるなど、多岐にわたる分野で影響力を持つ人物です。

生い立ちと名前の変遷

1952年6月14日、キロン・ケールはマイソール州（現在のカルナータカ州）ベンガルールで誕生しました。パンジャーブ人のジャート族シク教徒であるサンドゥ家の一員として生まれた彼女は、幼名をキラン・ターカル・シン・サンドゥといい、成長期をチャンディーガルで過ごしました。教育はマディヤ・プラデーシュ州ジャバルプルの学校を経て、チャンディーガルのパンジャーブ大学演劇科で専門的に演劇を学びました。

彼女の名前は、人生の節目と共に変化しています。最初の夫である実業家ガウタム・ベリーとの結婚中はキラン・ベリーとして知られ、1985年に俳優のアヌパム・ケールと再婚してからはキラン・ターカル・シン・ケールと名乗るようになりました。その後、数秘術に関心を深め、2003年には名前の綴りを「Kiran」から「Kirron」に変更。これにより、以降はキロン・ケールとして広く認識されることになります。名前の表記には、KiranやKironといった揺れも存在します。

女優としての歩み

キロンの女優キャリアは、1983年のパンジャーブ語映画『Aasra Pyaar Da』で始まりました。しかし、その後はすぐには大きな役や出演機会に恵まれず、1996年まで長い低迷期を過ごします。この間に出演したのは、1987年の『Pestonjee』のみでした。1990年代中盤に入り、ジャーヴェード・シッディーキー脚本、フェローズ・アッバース・カーン演出の舞台『Saalgirah』で再び女優としての活動を本格化させます。

舞台復帰後、テレビの世界にも進出。特にジーTVのトーク番組『Purushkshetra』では、これまでタブー視されがちだったオルタナティブ・セクシャリティーや女性問題を深く掘り下げ、注目を集めました。他にも『Kirron Kher Today』や『Jagte Raho with Kirron Kher』といった番組で司会を務めています。

映画界への本格的な復帰は、1996年のシャーム・ベネガル監督作『Sardari Begum』でした。この作品での演技が高く評価され、国家映画賞の審査員特別賞を受賞します。1999年にはリトゥポルノ・ゴーシュ監督の『Bariwali』に出演し、主演女優としての地位を確立。同作で国家映画賞主演女優賞を獲得しましたが、吹き替えを担当した声優との間で受賞資格を巡る論争も発生しました。2002年には、サンジャイ・リーラー・バンサーリー監督の大作『デーヴダース』で主要キャストとして出演し、フィルムフェア賞助演女優賞に初ノミネートされるなど、主要な賞レースでも常連となります。

国際的な評価も高く、2003年のインド・パキスタン合作映画『静かな水』では主役を演じ、インド・パキスタン分離独立という歴史の波に翻弄される女性の複雑な内面を見事に表現しました。この役で、ロカルノ国際映画祭をはじめ、カラチ、シピエ、ケープタウンといった各国の映画祭で主演女優賞を受賞。映画自体もロカルノ国際映画祭の最高賞である金豹賞を受賞し、キロンの演技は国際的に絶賛されました。2004年には、インディアン・フィルム・フェスティバル・ロサンゼルスで長年の功績を称えられ、アメリカの人気ドラマ『ER緊急救命室』に夫アヌパム・ケールと共にゲスト出演するという経験もしています。

2000年代半ば以降も、彼女の活躍は続きました。『Main Hoon Na』『Hum Tum』『ヴィールとザーラ』『Mangal Pandey: The Rising』『Fanaa』といったヒット作に次々と出演し、批評家からもその演技力を高く評価されます。『Rang De Basanti』『さよならは言わないで』、そして『Dostana』では、再びフィルムフェア賞助演女優賞にノミネートされるなど、助演としても作品に欠かせない存在となりました。また、2009年からは人気オーディション番組『India's Got Talent』で審査員を務め、新たな才能の発掘にも貢献しています。

政治家としての活動

キロン・ケールは長年にわたり、「Laadli（女児殺し反対）」や「Roko Cancer（癌啓蒙）」といった様々な社会運動に積極的に参加してきました。こうした社会貢献活動が、彼女を政治へと導いた一因とも言えます。

2009年にインド人民党に入党し、政治家としてのキャリアをスタートさせます。2011年の地方選挙では、チャンディーガルを中心とする各地で精力的な選挙活動を展開しました。特に、ナレンドラ・モディが首相候補となる以前から、彼女は公然とモディを支持する姿勢を貫きました。

その流れの中、2014年のインド総選挙において、キロンはチャンディーガル選挙区からインド人民党の候補として出馬しました。当時の現職候補者を相手に厳しい戦いが予想されましたが、19万票を超える多数の票を獲得し、見事に初当選を果たしました。国会議員として、彼女は故郷チャンディーガルへのフィルムシティ建設を重要な公約の一つに掲げていました。当選後、この公約を実現するために土地の確保に尽力し、後にチャンディーガル政府の協力を得て、サラングプルに建設用地を確保することに成功します。2019年の総選挙でも再び同選挙区から出馬し、前回の選挙で破った相手候補を再度上回る票を得て、二期目の当選を果たしました。

私生活

キロン・ケールには、兄のアマルディープ・シン・サンドゥ（アーティスト、2003年死去）と、二人の妹がいます。妹の一人、カンワル・ターカル・シンはバドミントン選手として活躍し、インドの栄誉あるスポーツ賞であるアルジュナ賞を受賞しています。もう一人の妹、シャランジット・カウル・シンはインド海軍の退役将校と結婚しています。

彼女は1979年3月にムンバイの実業家ガウタム・ベリーと最初の結婚をし、息子シカンダルをもうけました。この時期、女優として活動の機会を模索する中で、同様に俳優として苦労していたアヌパム・ケールとの交流を深めていきます。二人は大学時代に同じ演劇サークルに所属し、『Chandpuri Ki Champabai』という舞台で共演した経験がありました。アヌパムが1984年の映画『Saaransh』で大きなブレイクを果たした後、キロンは1985年にガウタム・ベリーと離婚し、アヌパムと再婚しました。

多才な才能を持ち、女優として国際的に評価され、政治家としても確固たる地位を築いているキロン・ケールは、インド社会において大きな存在感を示し続けています。

主な出演作（一部）

映画:
『Aasra Pyaar Da』（1983年）
『Pestonjee』（1988年）
『Sardari Begum』（1996年）
『Bariwali』（2000年）
『デーヴダース』（2002年）
『静かな水』（2003年）
『Main Hoon Na』（2004年）
『Hum Tum』（2004年）
『ヴィールとザーラ』（2004年）
『Mangal Pandey: The Rising』（2005年）
『Rang De Basanti』（2006年）
『Fanaa』（2006年）
『さよならは言わないで』（2006年）
『Dostana』（2008年）
『Singh Is Kinng』（2008年）
『Khoobsurat』（2014年）
『Punjab 1984』（2014年）
テレビシリーズ:
『Prratima』（2004年）
『ER緊急救命室』（2004年）
『India's Got Talent』（2009年〜）

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