キングスハウス (ウィンチェスター)

キングスハウス (King's House) の歴史

キングスハウスは、17世紀末にイングランドのハンプシャー州ウィンチェスターに建設が計画された王宮殿です。この地域は、かつてアングロ・サクソン系の王朝時代においてウェセックス王国の首都でしたが、ノルマン・コンクエスト後には経済的に落ち込み、静かな街となっていました。そんなウィンチェスターで、王チャールズ2世のために宮殿の建設が進められることになりました。

このプロジェクトを引き受けたのは著名な建築家、サー・クリストファー・レンです。レンは1683年から1685年にかけて建設を進め、ウィンチェスター城の隣接地に位置する計画が考えられていました。設計には、フランスのヴェルサイユ宮殿を模した壮大な要素が取り入れられる予定でした。宮殿は壮観な景色を見渡すことができる庭園や遊歩道を持ち、訪れる人々に驚きを提供することが期待されていました。

しかし、1685年2月、チャールズ2世が死去したことで、建設は途中で中断されました。レンは王に「1年後には完成する」と明るく伝えたと言われていますが、チャールズ2世は「私の人生において1年は非常に大きな時間だ」と返したという逸話も残っています。この時点ではすでに建物の基本構造が策定されていたものの、後の君主たちが資金を調達できずに、最終的にはこの計画は放棄されることとなりました。

その後、キングスハウスは別の用途に使われるようになりました。1756年には、七年戦争の影響でフランス人捕虜が約5,000人収容されました。さらにアメリカ独立戦争の時期には、様々な国籍の捕虜たちがこの施設に収められることがありました。特にフランス革命の際には、8,000人以上のフランス人聖職者がイギリスに避難し、その中の660人がキングスハウスに滞在しました。

1796年からは、キングスハウスは大規模な兵舎として利用され、さらに病院や学校も開設されました。しかし1894年12月、悲劇的な火災によってこの建物は破壊されてしまい、その後取り壊されました。

建物の一部である円柱や装飾が施された石材は、1900年に跡地に建設されたペニンシュラ・バラックスの新しい建物にリサイクルされました。現在、これらの一部はウィンチェスターの軍事博物館に展示されています。このように、キングスハウスの歴史は建設が実現しなかった夢の物語でありながら、時代の流れと共に変化していった多様な利用が記憶に残る重要な場所となっています。

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