キングズベイ海軍潜水艦基地

キングズベイ海軍潜水艦基地

キングズベイ海軍潜水艦基地（Naval Submarine Base Kings Bay）は、アメリカ海軍が運用する主要な潜水艦基地の一つです。ジョージア州の南東端、フロリダ州との州境に接するカムデン郡に位置しています。この地域は複雑な海岸線を持ち、多くの島々や水路を通じて大西洋に通じています。基地は、カンバーランド島の陰に隠れるようにセントメアリーズ市に隣接し、セントメアリーズ川とクルックト川に挟まれた岬の大部分を占めています。フロリダ州ジャクソンヴィルからは約61キロメートル（38マイル）離れています。特に、トライデント核ミサイルを搭載した戦略弾道ミサイル原子力潜水艦（SSBN）の大西洋における重要な母港として機能しています。

基地の総面積は約6,470万ヘクタールに及び、その広大な敷地の周辺には豊かな自然が残されています。基地内の約4分の1は湿地保護地域に指定されており、対岸のカンバーランド島は国立保護海岸となっています。これらの保護区には、鳥類229種、哺乳類68種、爬虫類67種（毒蛇5種を含む）、両生類37種といった多様な生物が生息しており、中には20種もの絶滅危惧種が含まれています。

歴史

基地の黎明期

キングズベイ一帯は、考古学調査によって数千年前の先コロンブス期からアメリカ先住民が居住していたことが明らかになっています。19世紀初頭には、チェリーポイント、ハーモニーホール、ニューカナン、マリアンナ、キングズベイといった複数のプランテーションが存在しました。特に、1790年代にトーマス・キングが湾沿いに建設したプランテーションや、ジョン・ヒューストン・マッキントッシュによる大規模なニューカナン・プランテーションでは、綿花やサトウキビが栽培されていました。

南北戦争後、プランテーション制度は衰退し、土地は小規模な農地に分割されました。後の潜水艦基地建設に際して、土地所有者が十分な補償を受けられなかった事例も報告されています。当時の住民は、小規模な農作物の収穫に加え、エビや魚介類の漁獲によって生計を立てていました。

陸軍基地としての時代

1954年、アメリカ陸軍は国家の非常事態に備えた弾薬の海上輸送ターミナル建設のため、キングズベイ周辺の約7,000エーカーの土地取得を開始しました。建設は1955年に始まり、1958年に完成。幅約60メートルの運河がカンバーランド水道まで浚渫され、船回し場も整備されました。主要施設として、長さ約600メートル、幅約26メートルの大型埠頭が建設され、複数の弾薬船への同時積載が可能でした。基地内には約75キロメートルに及ぶ線路も敷設され、貨車は爆発被害を抑えるための土塁で囲まれた一時保管場所に運ばれました。これらの土塁は現在も基地内に残る特徴的な地形です。

しかし、この施設の即時運用が必要となる状況は発生せず、まもなく非活性準備状態に置かれました。1959年には、ブルースター海運が埠頭を使用するリース契約を結んでいます。本来の目的では使用されませんでしたが、1964年のハリケーン・ドーラ襲来時には避難所として約100人の地域住民を受け入れ、またキューバ危機の間には約1,100人の人員と70隻の小舟艇を擁する陸軍輸送大隊が一時的に展開しました。

海軍基地への転換

キングズベイが戦略潜水艦基地として発展する契機は、1975年に始まりました。当時、アメリカとスペインの間で進行していた条約交渉の中で、戦略弾道ミサイル潜水艦の作戦基地であるスペインのロタ海軍基地からの撤退が議題に上ったためです。撤退に備え、海軍は東海岸における代替基地の調査を命じ、1976年6月の条約批准を経て、1979年7月までのロタからの潜水艦戦隊撤退が決定しました。

慎重な検討の結果、ジミー・カーター大統領選出直後の1976年11月、キングズベイが新基地として選定されました。間もなく最初の海軍要員が着任し、陸軍からの資産移管準備を開始。1978年7月1日には、キングズベイ海軍潜水艦支援基地が開発中の状態で設立されました。この基地は、以前の陸軍用地に加え、さらに数千エーカーの土地を統合しています。

潜水艦戦隊の受け入れ準備は急速に進められ、1979年7月2日には潜水母艦サイモン・レイク（USS Simon Lake, AS-33）が入港。4日後には弾道ミサイル潜水艦ジェームズ・モンロー（USS James Monroe, SSBN-622）が続き、キングズベイは潜水艦基地としての活動を開始しました。

1979年5月、海軍は新しいオハイオ級弾道ミサイル原子力潜水艦の東海岸における優先的な母港としてキングズベイを選定。1年間の環境影響評価と議会承認を経て、1980年10月23日、海軍長官はキングズベイがトライデント搭載潜水艦の大西洋側母港となることを正式に宣言しました。この決定は、平時としては米海軍史上最大級の建設プロジェクトを始動させました。9年の歳月と13億ドルを投じ、トライデント訓練施設、トライデント補修施設、大西洋戦略兵器施設の建設を含む大規模なインフラ整備が行われました。

1989年以降、トライデントD5ミサイルを搭載した後期建造型オハイオ級SSBNが続々とキングズベイに配備されました。1989年のテネシー（USS Tennessee, SSBN-734）を皮切りに、ペンシルベニア、ウェストバージニア、ケンタッキー、メリーランド、ネブラスカ、ロードアイランド、メイン、ワイオミングが続き、1997年9月のルイジアナ（USS Louisiana, SSBN-743）の就役をもって、合計10隻のトライデントD5搭載艦がキングズベイに配備されました。これにより、冷戦下の戦略核抑止体制における重要な役割を担うこととなります。

冷戦後の再編

冷戦終結と1990年代の戦略兵器再編成は、キングズベイにも影響を与えました。核兵器政策の見直しにより、2005年までにトライデント潜水艦を18隻から14隻に削減する方針が決定。これに伴い、初期建造のオハイオ級4隻が一時退役し、大量の通常弾頭トマホーク巡航ミサイルを搭載可能な巡航ミサイル潜水艦（SSGN）へと転換されました。これらのSSGNは、特殊部隊（SEALsなど）や海兵隊の支援能力も有しています。

さらに、トライデントSSBNの一部は、東西両岸の部隊均衡を図るため太平洋艦隊に移籍されました。ペンシルベニアとケンタッキーは2003年に、ルイジアナとメインは2005年にそれぞれ太平洋側のバンゴール基地へ移動しました。SSGNに転換されたフロリダとジョージアは、改修完了後も引き続きキングズベイを母港としています。

基地の機能と主要部隊

キングズベイ海軍潜水艦基地には、多岐にわたる機能を持つ複数の主要部隊が配置されています。

第10潜水艦群 (Submarine Group 10): 1989年1月1日に編成され、基地における先任指揮官を務めます。大西洋潜水艦隊司令官の指揮下、キングズベイを母港とするオハイオ級艦艇の作戦統制および行政管理、配下部隊の指揮を行います。

第16潜水戦隊 (Submarine Squadron 16): 東海岸を拠点とするオハイオ級SSGN（巡航ミサイル潜水艦）への行政支援を担当します。トライデント再整備施設と連携し、SSGNのメンテナンス計画・実行を調整します。また、SSBNの大規模整備期間中なども支援を行います。キングズベイ配備のオハイオ級SSBNのうち、奇数艦番号の5隻を管理しています。

第20潜水戦隊 (Submarine Squadron 20): 第16戦隊と同様の支援サービスを提供しますが、主に東海岸を拠点とするオハイデ級SSBNとその戦略的抑止任務に責任を負います。偶数艦番号のSSBNを管理しています。

海軍潜水艦支援センター (Naval Submarine Support Center): 潜水艦戦隊に対し、資材、人員、訓練、兵站などの集中管理およびサポートサービスを提供します。

大西洋戦略兵器施設 (Strategic Weapons Facility Atlantic, SWFLANT): 弾道ミサイル部隊に対する戦略ミサイルおよび兵器システムの支援を行います。トライデントⅡ D-5ミサイルの組み立てや、ミサイル誘導・発射サブシステムの処理を担当します。1994年に完成したこの施設は、ミサイル組み立てビルや最終梱包ビル、爆発物取扱埠頭（EWF）など24棟で構成されます。高さ44メートルのEWF-1は地域で最も高い建物です。核弾頭（W76, W88）やロケットモーターの保管施設も有しています。SWFLANTは、米海軍だけでなく、英海軍のヴァンガード級潜水艦が搭載するトライデントミサイルの保管・整備も担っており、英米共有のミサイルプールの一部を構成しています。英国は1962年のポラリス売却協定（後のトライデント導入で改定）に基づき、キングズベイで保管されるミサイルの一部所有権を持ちます。

海兵隊保安部隊大隊 (Marine Corps Security Force Battalion, Kings Bay): 大西洋戦略兵器施設への直接支援として保安活動を行います。海軍作戦部長の承認に基づき、海兵隊士官の指揮下で運用され、海軍の法執行・保安部隊とも連携しています。

沿岸警備隊洋上戦力防護部隊 (Maritime Force Protection Units, MFPU): 母港に出入港する潜水艦の同伴警護を専門に行う沿岸警備隊部隊です。複数の小型舟艇やマリンプロテクター型沿岸警備艇（シーデヴィル、シードッグ）を保有しており、海軍の指揮下で運用され、海軍予算で給与が支払われます。

トライデント再整備施設 (Trident Refit Facility, TRF): キングズベイ最大の部隊であり、弾道ミサイル潜水艦の整備・補修を担います。工業レベルの品質でトライデント潜水艦の段階的なオーバーホール、近代化、補修を提供し、補給品や予備部品のグローバルな支援も行います。世界最大級の被覆ドライドック（長さ約213m、幅約30m、深さ約20m）や、潜水艦の磁気測定・除去を行う東海岸唯一の磁気静粛化施設（MSF）、魚雷の貯蔵・保守施設（国防武器支援施設）を備えています。

トライデント訓練施設 (Trident Training Facility, TTF): 広大な施設で、トライデント潜水艦の運用・保守に必要な技能を水兵に訓練しています。潜水艦の実装備をリアルにシミュレートする訓練装置（ダメージコントロール、消火、操艦、航法、兵器システムなど）を使用し、基本的・高度な専門訓練を提供します。トライデント売却協定に基づき、英国海軍のヴァンガード級潜水艦乗員も訓練を受けることがあり、またコロンビア海軍兵員もここで訓練を行っています。

母港とする艦艇

現在、キングズベイ海軍潜水艦基地を母港としている艦艇は以下の通りです。

巡航ミサイル潜水艦 (SSGN)
USS Florida (SSGN-728)
USS Georgia (SSGN-729)
弾道ミサイル潜水艦 (SSBN)
USS Alaska (SSBN-732)
USS Tennessee (SSBN-734)
USS West Virginia (SSBN-736)
USS Maryland (SSBN-738)
USS Rhode Island (SSBN-740)
* USS Wyoming (SSBN-742)

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