キング・ユースネヴィチ・アンド・ヒズ・ユースネヴィチトーンズ
キング・ユースネヴィチ・アンド・ヒズ・ユースネヴィチトーンズは、かつて存在したとされるアメリカ合衆国のガレージ・ロックバンドである。媒体によっては「キング・ユースネヴィチ・アンド・ザ・ユースネヴィチトーンズ」と表記されることもある。
伝説によれば、このバンドは1969年から1979年にかけて、デトロイト市内のボウリング場を主な活動拠点としていたとされる。中心人物は、リードボーカルとテナー・サックスを担当していた「キング」ことアーニー・ユースネヴィチとされる人物である。その音楽性は、演奏技術の未熟さが際立っており、不適切なチューニング、粗雑な楽器の扱い、そして音程の外れたボーカルなどが特徴であった。しかしながら、それらを凌駕するような勢い任せの破壊的なエネルギーに満ちた演奏スタイルが特色であったという。1979年、活動の場であったボウリング場が火災により閉鎖されたことで、バンドは解散したと伝えられている。
この奇妙なバンドが広く知られるようになったのは、1984年にロック歌手であり音楽評論家としても活動していたカブ・コーダ（Cub Koda）が、音楽雑誌などを通じて紹介したことがきっかけである。彼の紹介により、米国を中心に一部の音楽マニアやレコードコレクターの間でカルト的な人気を獲得していった。
しかしながら、このバンドの背後には驚くべき真相が存在した。キング・ユースネヴィチ・アンド・ヒズ・ユースネヴィチトーンズは、カブ・コーダ自身がレコードコレクターたちを対象に仕掛けた、巧妙ないたずらによって創作された架空の存在だったのである。カブ・コーダの本名はマイケル・ユースネヴィチといい、皮肉にも「ユースネヴィチ」は彼自身の姓でもあった。
コーダは、自身のバンドであるブラウンズヴィル・ステーション（Brownsville Station）のツアーに同行していたローディー（機材の運搬や設営を行うスタッフ）たちと共に、このプロジェクトを実行した。メンバーは各自が普段演奏しない楽器をあえて担当するという異色の編成で、意図的に「ひどいサウンドのオールディーズバンド」を模倣した楽曲群をレコーディングした。この録音から、1960年代から1970年代のマイナーな自主制作盤を装った数百枚ものLPレコードが極秘裏にプレスされた。これらのレコードは、ブラウンズヴィル・ステーションのツアーで訪れた各地の中古レコード店などに密かに流通させられたのである。
さらにコーダは、このバンドを「モーター・シティ（デトロイトの愛称）のボウリング場で偶然発見し、その破壊的なサウンドに衝撃を受けてスタジオに連れ出し、数曲を録音させた」という、全くの作り話である発見譚をでっち上げた。そして、この虚偽の物語を中古レコード専門誌などを通じて発信し、熱心な音楽マニアやコレクターたちの好奇心を煽った。
コーダが広めたこの虚構の物語は、米国の音楽愛好家の間で時間をかけて浸透していった。その結果、1989年に発売されたLP「ティーンエージ・ダンス・パーティ（Teenage Dance Party）」は、著名な音楽データベースであるオールミュージック紙から5段階中4.5という異例とも言える高評価を獲得した。その後も「ツイスティン・アンド・ボウリン（Twistin' and Bowlin'）」（1991年）、「ドゥイーン・ザ・ウーウー（Doin 'The Woo-Hoo）」（1994年）、「バトル・オブ・ザ・バンズ（Battle Of The Bands）」（2011年）と、計4枚のアルバムがリリースされるに至り、この架空のバンドは「史上最悪のロック・バンド」というレッテルと共に、強固なカルト的人気を確立していった。
この大規模ないたずらの真相は、カブ・コーダの死後間もない2000年7月、オンラインマガジン『コスミック・デブリ（Cosmic Debris）』に掲載された彼への追悼記事の中で初めて明らかにされた。
興味深いことに、アルバムジャケットに写るリードボーカル「アーニー・"キング"・ユースネヴィチ」とされる人物の写真は、実はカブ・コーダ自身の父親のものである。また、「ユースネヴィチ」という姓は、カブ・コーダが1957年に一家の姓を「コーダ」へと改めるまで、彼自身が名乗っていた本姓であった。さらに、「キング」という呼称は、ルーマニアからポーランドを経て米国に移住してきたカブ・コーダの祖父アンドリュー・ユースネヴィチが、ビーズの飾りがついた王冠のような帽子を好んで被っていたことに由来するという。
キング・ユースネヴィチ・アンド・ヒズ・ユースネヴィチトーンズは、その奇妙な存在が日本のメディアでも取り上げられたことがある。例えば、2011年6月11日に放映されたテレビ番組『タモリ倶楽部』の企画「勝ち抜き歌ヘタ合戦」において、技術的には未熟ながらも個性を放つアーティストたち、例えばフローレンス・フォスター・ジェンキンスやシャッグスなどと並んで紹介された。
現在、彼らのディスコグラフィに名を連ねるLPレコードのうち、「ティーンエージ・ダンス・パーティ」、「ツイスティン・アンド・ボウリン」、「バトル・オブ・ザ・バンズ」の3作品については、2025年4月時点において、Apple MusicやYouTubeなどのストリーミングサービスで聴くことが可能となっている。
このバンドの物語は、音楽史における「偽史」の一例として、また、技術的な洗練度とは異なる基準で評価される「インディー・ロック」や「ガレージ・ロック」の極端な例として語られることがある。さらに、意図的に不慣れな楽器パートを担当するという制作手法は、クラシック音楽の分野におけるパフォーマンスアート集団、ポーツマス・シンフォニアを彷彿とさせる側面も持っている。
伝説によれば、このバンドは1969年から1979年にかけて、デトロイト市内のボウリング場を主な活動拠点としていたとされる。中心人物は、リードボーカルとテナー・サックスを担当していた「キング」ことアーニー・ユースネヴィチとされる人物である。その音楽性は、演奏技術の未熟さが際立っており、不適切なチューニング、粗雑な楽器の扱い、そして音程の外れたボーカルなどが特徴であった。しかしながら、それらを凌駕するような勢い任せの破壊的なエネルギーに満ちた演奏スタイルが特色であったという。1979年、活動の場であったボウリング場が火災により閉鎖されたことで、バンドは解散したと伝えられている。
この奇妙なバンドが広く知られるようになったのは、1984年にロック歌手であり音楽評論家としても活動していたカブ・コーダ（Cub Koda）が、音楽雑誌などを通じて紹介したことがきっかけである。彼の紹介により、米国を中心に一部の音楽マニアやレコードコレクターの間でカルト的な人気を獲得していった。
しかしながら、このバンドの背後には驚くべき真相が存在した。キング・ユースネヴィチ・アンド・ヒズ・ユースネヴィチトーンズは、カブ・コーダ自身がレコードコレクターたちを対象に仕掛けた、巧妙ないたずらによって創作された架空の存在だったのである。カブ・コーダの本名はマイケル・ユースネヴィチといい、皮肉にも「ユースネヴィチ」は彼自身の姓でもあった。
コーダは、自身のバンドであるブラウンズヴィル・ステーション（Brownsville Station）のツアーに同行していたローディー（機材の運搬や設営を行うスタッフ）たちと共に、このプロジェクトを実行した。メンバーは各自が普段演奏しない楽器をあえて担当するという異色の編成で、意図的に「ひどいサウンドのオールディーズバンド」を模倣した楽曲群をレコーディングした。この録音から、1960年代から1970年代のマイナーな自主制作盤を装った数百枚ものLPレコードが極秘裏にプレスされた。これらのレコードは、ブラウンズヴィル・ステーションのツアーで訪れた各地の中古レコード店などに密かに流通させられたのである。
さらにコーダは、このバンドを「モーター・シティ（デトロイトの愛称）のボウリング場で偶然発見し、その破壊的なサウンドに衝撃を受けてスタジオに連れ出し、数曲を録音させた」という、全くの作り話である発見譚をでっち上げた。そして、この虚偽の物語を中古レコード専門誌などを通じて発信し、熱心な音楽マニアやコレクターたちの好奇心を煽った。
コーダが広めたこの虚構の物語は、米国の音楽愛好家の間で時間をかけて浸透していった。その結果、1989年に発売されたLP「ティーンエージ・ダンス・パーティ（Teenage Dance Party）」は、著名な音楽データベースであるオールミュージック紙から5段階中4.5という異例とも言える高評価を獲得した。その後も「ツイスティン・アンド・ボウリン（Twistin' and Bowlin'）」（1991年）、「ドゥイーン・ザ・ウーウー（Doin 'The Woo-Hoo）」（1994年）、「バトル・オブ・ザ・バンズ（Battle Of The Bands）」（2011年）と、計4枚のアルバムがリリースされるに至り、この架空のバンドは「史上最悪のロック・バンド」というレッテルと共に、強固なカルト的人気を確立していった。
この大規模ないたずらの真相は、カブ・コーダの死後間もない2000年7月、オンラインマガジン『コスミック・デブリ（Cosmic Debris）』に掲載された彼への追悼記事の中で初めて明らかにされた。
興味深いことに、アルバムジャケットに写るリードボーカル「アーニー・"キング"・ユースネヴィチ」とされる人物の写真は、実はカブ・コーダ自身の父親のものである。また、「ユースネヴィチ」という姓は、カブ・コーダが1957年に一家の姓を「コーダ」へと改めるまで、彼自身が名乗っていた本姓であった。さらに、「キング」という呼称は、ルーマニアからポーランドを経て米国に移住してきたカブ・コーダの祖父アンドリュー・ユースネヴィチが、ビーズの飾りがついた王冠のような帽子を好んで被っていたことに由来するという。
キング・ユースネヴィチ・アンド・ヒズ・ユースネヴィチトーンズは、その奇妙な存在が日本のメディアでも取り上げられたことがある。例えば、2011年6月11日に放映されたテレビ番組『タモリ倶楽部』の企画「勝ち抜き歌ヘタ合戦」において、技術的には未熟ながらも個性を放つアーティストたち、例えばフローレンス・フォスター・ジェンキンスやシャッグスなどと並んで紹介された。
現在、彼らのディスコグラフィに名を連ねるLPレコードのうち、「ティーンエージ・ダンス・パーティ」、「ツイスティン・アンド・ボウリン」、「バトル・オブ・ザ・バンズ」の3作品については、2025年4月時点において、Apple MusicやYouTubeなどのストリーミングサービスで聴くことが可能となっている。
このバンドの物語は、音楽史における「偽史」の一例として、また、技術的な洗練度とは異なる基準で評価される「インディー・ロック」や「ガレージ・ロック」の極端な例として語られることがある。さらに、意図的に不慣れな楽器パートを担当するという制作手法は、クラシック音楽の分野におけるパフォーマンスアート集団、ポーツマス・シンフォニアを彷彿とさせる側面も持っている。
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