キンラン

キンラン（金蘭）とは

キンラン（学名: Cephalanthera falcata）は、ラン科キンラン属に分類される多年草です。和名の由来は、その名の通り黄金色の花を咲かせることにあります。山地の林の中などに自生し、4月から6月にかけて美しい花を咲かせますが、近年は数を減らしており、環境省のレッドリストでは絶滅危惧II類に指定されています。

特徴

キンランは、高さ30cmから70cm程度に成長し、茎の先端に直径1cmほどの黄色い花を総状に咲かせます。花は完全に開かず、半開きの状態を保つのが特徴です。花弁は5枚で、唇弁には赤褐色の隆起が見られます。葉は細長い楕円形で、長さは10cm前後、縦方向にしわが多く見られます。茎を抱くように互生する葉は、7、8枚ほどです。

人工栽培の難しさ

キンランの人工栽培は非常に難しいことで知られています。その理由は、キンランが特定の菌類に依存して生育する性質を持っているからです。

一般的な園芸植物のラン科植物は、リゾクトニアと呼ばれる腐生菌に依存しています。これらの菌類は、落ち葉や倒木などを栄養源として独立して生きています。しかし、キンランが依存しているのは、樹木の根に外菌根を形成するイボタケ科やベニタケ科などの菌類です。これらの外菌根菌は、樹木と共生関係にあり、樹木から炭素を得て、代わりにミネラルなどを供給しています。キンランは、この共生系に割り込み、養分を奪うことで生育しています。

ラン科植物は、多かれ少なかれ菌類に依存しており、菌への依存度は種類によって異なります。キンランは、独立栄養植物と菌従属栄養植物の中間に位置し、菌から炭素源の34～43％、窒素源の約49％を供給されています。同属のギンランと比較すると、菌への依存度は低いですが、それでも高い依存度であると言えます。

このため、キンランは菌との共生関係が乱れると、すぐに枯れてしまうわけではないものの、長期的な生育は困難になります。自生地からキンランだけを掘り出して移植しても、数年で枯れてしまうのはこのためです。キンランを栽培するためには、理論的には、菌根性樹木、菌根菌、キンランの三者共生系を構築する必要があります。実際に、キンランから分離した菌根菌を樹木に接種し、キンランを育成する実験も成功していますが、これは高度な技術を必要とし、一般家庭で行うのは困難です。

自然環境には、約6000種もの外菌根菌が存在すると言われています。キンランが生育する場所にも、多様な外菌根菌が共存していると考えられます。しかし、キンランに養分を供給する菌種は限られており、単純にキンランと樹木を寄せ植えしても、その樹木にキンランと共生できる菌がいない場合は、キンランを育てることができません。

分布

キンランは、北海道を除く日本各地、中国、朝鮮半島に分布しています。

保全状況

かつては日本でよく見られたキンランですが、1990年代頃から急激に数を減らしました。その結果、1997年には環境省のレッドリストで絶滅危惧II類に指定されました。また、各都道府県のレッドデータブックにも指定されています。

同属のギンランもキンランと同じように減少しており、キンランと並んで咲いている光景を見る機会も少なくなっています。これらの減少の背景には、雑木林の放置による遷移の進行、開発、野生ランブームによる乱獲などが考えられます。

参考文献

坂本らによる菌類に関する調査
Yagame and Yamato (2013)によるキンランの栽培実験

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