キーボード・マガジン

『キーボード・マガジン』：鍵盤楽器専門のマガジンの歴史

『キーボード・マガジン』は、株式会社リットーミュージックが1979年に創刊した鍵盤楽器専用の音楽雑誌です。この雑誌は、米国の『Keyboard』誌と提携し、邦楽器市場における新たな情報源となりました。当時の日本では、クラシックピアノや一部の電子オルガンに関する誌面が中心で、ポピュラー音楽に関連した内容は、ギターを主体とするものが大半でしたが、『キーボード・マガジン』は、鍵盤楽器に焦点を当てた特化型の媒体として、非常に重要な役割を果たしました。

創刊から間もない1979年当初、特集された内容や取り上げられたアーティストには、リック・ウェイクマンやヤン・ハマー、さらには日本のアーティストである尾崎亜美やミッキー吉野など、多様なミュージシャンが登場しました。誌面では、ポピュラー音楽の演奏情報や詳細な楽譜、演奏法の解説が提供され、特にジャズやフュージョン分野の理論や実践についても触れられえました。

1980年代に入ると、電子楽器の普及が進む中で、キーボードの使い方やMIDIの導入についての解説が多く掲載されるようになりました。当時のシンセサイザーの技術革新に伴い、機材レビューも人気のコンテンツとなり、様々な電子機器が特集されました。特に、ロールやコルグ、ヤマハといった日本のメーカーは、世界的に見ても重要な位置を占め、彼らの製品を使った音楽制作の実践的な内容が評価されました。

1990年代に差し掛かる頃には、キーボードの機能がワークステーション化し、『キーボード・マガジン』もその内容を発展させ、作曲や音楽録音、さらにはステージ演奏に関する情報を広範に取り扱うようになりました。このような変化の中で、演奏に必要な理論や技術などの知識が、読者に提供され続けました。

また、『キーボード・マガジン』は、定期刊行の中でいくつかの優れた連載を展開しました。篠田元一による「実践コード・ワーク」や、キース・エマーソンの自伝的な連載などは、多くの読者に支持され、後に書籍化されるなどしています。電子音楽や音楽制作の多様なテクニックも、独自の記事として取り上げられ、当時の最前線のミュージシャン達が連載執筆を行っていました。特に、作品の作り方や蓄積されたノウハウの共有は、アマチュアからプロまで広く受け入れられるコンテンツとなり、多くの読者層を形成しました。

2000年代においては、音楽制作に関連するテーマが登場しつつも、再び演奏者の視点を重視する内容に回帰しました。ただし、徐々にジャズの楽曲分析が減少し、主にロックやポップスに焦点を当てた関心が強くなりました。休刊まで、海外アーティストの翻訳記事も多く取り扱われ、情報の発信源としての重要性が保たれていました。

2020年4月号をもって季刊誌としての役割を終え、その後は不定期刊行のムックとして再始動することとなりました。2024年現在は、ムック及び一部のバックナンバーがオンラインで入手可能で、電子書籍版では一部の楽譜が収録されない問題も抱えつつ、過去のコンテンツの価値は留まっています。『キーボード・マガジン』は、鍵盤楽器の文化を広めるうえでの重要な存在であり、今なお多くのミュージシャンにとって貴重な情報源としての役割を果たしています。

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