キール市電

キール市電（ドイツ語: Straßenbahn Kiel）は、かつてドイツ北部、シュレースヴィヒ＝ホルシュタイン州の州都キールに存在した路面電車網です。その歴史は古く、1881年に開通した馬車鉄道を起源としています。その後、1896年には電化が実現し、都市の発展とともに路線網を拡大しましたが、残念ながら1985年までに全線が姿を消しました。

しかし、公共交通機関の重要性が見直される中で、2022年にキール市内に再び路面電車を建設する計画が決定しました。これにより、2030年代以降、新たな路線が順次開業する予定となっています。

歴史

起源：馬車鉄道時代

キール市内における最初の軌道交通は、1881年 7月9日に営業を開始した馬車鉄道でした。この路線は軌間1,100 mmという特殊な狭軌を採用し、キール鉄軌道会社（Straßen- und Eisenbahn-Gesellschaft）によって運営されていました。1892年には、この馬車鉄道の路線網は全長7.2 kmにまで拡大しました。

電化開業と運営会社の変遷

さらなる収益性の向上を目指し、キール鉄軌道会社は路線の拡張と電化を計画しましたが、これに必要な資金を調達することができませんでした。そこで、1894年に電機メーカーのAEGがキール市内で路面電車の建設と運営を行う認可を取得しました。キール鉄軌道会社は1895年にAEGの子会社であるアルゲマイネ郊外・路面電車会社（Allgemeinen Lokal- und Straßenbahn-Gesellschaft、ALOKA）に買収され、以降はALOKAが路面電車の建設を進めることとなりました。1896年 5月2日には電気運転が開始され、同年中に全区間の電化が完了しました。この際も、軌間は馬車鉄道時代の1,100 mmが維持されています。

戦前の発展

軍港都市として発展し人口が増加していたキールに合わせて、路面電車網も順調に拡大しました。1910年までには、1号線から5号線、7号線から9号線までの計8系統が運行される路線網が形成されました。その後も各系統の延伸が続き、車両増加に対応するための車庫増設も行われました。

第二次世界大戦の影響

第二次世界大戦中、キール市電の運営権はALOKAからキール市が所有するキール交通株式会社（Kieler Verkehrs AG、KVAG）に移管されました。しかし、戦況が悪化するにつれて列車の運行は困難となり、一部区間の廃止や系統数の削減が実施されました。さらに、空襲によって線路、施設、車両に甚大な被害が生じ、運行が一時的に休止されました。終戦後の1945年 7月20日に運行が再開されて以降、破壊された設備の復旧作業が進められました。

戦後の復興と近代化

1950年代以降、キール市電は当時の西ドイツ国内でも比較的早く、車掌業務を廃止するワンマン運転への転換を進めました。1952年から順次ワンマン化が導入され、1967年までに全車両に無線装置が搭載され、信用乗車方式が導入されました。これに合わせて、1953年から1956年にかけては、キール市電の車両基地でワンマン運転に対応した7両の2軸車が製造されました。これらは「ストランペルマックス（Strampelmax）」という愛称で親しまれました。一方で、路線の拡張も行われ、1950年と1955年にはそれぞれ延伸が開業しました。1955年の時点では、キール市電の路線網は戦後最大規模となり、1号線から4号線、7号線の計5系統が運行されていました。既存路線についても、都市計画に合わせた線路の移設や、折り返し効率を高めるためのループ線新設などが実施されました。

車両の近代化と廃止への転換点

車両面では、1957年から1958年にかけてデュワグ製のボギー車（241 - 252）が導入され、続いて1960年から1961年には同じくデュワグ製の2車体連接車（261 - 275）も導入されました。また、1961年には廃止されたリューベック市電から戦後製の2軸車を譲り受け、車両の近代化が図られました。1963年には一部系統で最短3分間隔という高頻度運転が実施されるなど、サービスの向上も見られました。同年には一部車庫の拡張・近代化も行われています。

しかし、これに先立つ1959年には、2号線の一部区間が廃止され、バス路線に置き換えられるという変化が起こりました。この時点では、路面電車自体の将来性について大きな疑問は呈されておらず、存続が当然視されていました。しかし、1963年に7号線の一部区間が廃止され、系統が2号線に統合されたのを皮切りに、キール市電は路線網の縮小を続けることになります。1969年に2号線が廃止されると、残る系統は4号線のみとなりました。

そして、1977年 7月、キール市議会は路面電車の全面廃止を正式に決定しました。最後まで残された4号線は、決定から8年後の1985年 5月4日をもってその歴史に幕を下ろしました。

復活への歩み

キール市電の廃止後、2000年代に入ると、キール中央駅を中心としたドイツ鉄道の路線と新たな路面電車線を直通させるトラムトレイン構想、「シュタットレギオバーン・キール」プロジェクトが提案されました。2005年の予備調査を経て、2008年からは本格的な検討が開始されました。しかし、多数の反対意見や高額な建設費用といった問題が浮上し、2015年には残念ながら計画の断念が発表されました。

それでも、キール市内を中心に利便性の高い公共交通機関を整備する検討は継続されました。代替案としてバス・ラピッド・トランジット（BRT）なども検討されましたが、将来的に必要とされる輸送力、導入コストの効率性、安全性、信頼性などを総合的に比較検討した結果、再び路面電車を導入することが最適であるとの結論に至りました。2022年 10月に路面電車の再導入が提案され、翌11月に行われた市議会での投票により、キールに再び路面電車が走ることが正式に決定されました。

今後の展望

新たなキール市電の最初の路線は、2034年の開通を目指して計画が進められています。その後、段階的に路線網が整備され、2039年までには合計4つの路線がキール市内に導入される予定です。かつてキールの街を走り、一度は姿を消した路面電車が、装いを新たに現代に復活することになります。

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