ギザギザハートの子守唄

ギザギザハートの子守唄：チェッカーズのデビューシングルとその波乱万丈な軌跡

1983年9月21日、日本の音楽シーンに彗星のごとく現れたのが、チェッカーズのデビューシングル「ギザギザハートの子守唄」でした。発売元はキャニオン・レコード。しかし、この曲は当初、ほとんど注目を集めることなく、静かに市場に溶け込んでいきました。

デビュー曲として選ばれた「ギザギザハートの子守唄」は、実は当初B面曲として予定されていた「恋のレッツダンス」を差し置いての抜擢でした。キャニオンレコード宣伝部の判断により、チェック柄の衣装とのギャップが大きいこの曲が、デビュー曲として選ばれたのです。

この決定に、メンバー自身も戸惑いを隠せませんでした。ボーカルの藤井フミヤは、初めてこの曲を聴いた際、「演歌かと思った」と語っています。担当のファッションコーディネーターも、同様の感想を抱いたと言われています。横浜銀蝿を意識したような、当時としては異質なツッパリ賛歌的な雰囲気は、メンバー全員にとって、決して心地よいものではありませんでした。

しかし、皮肉にもこの曲は、チェッカーズのツアー全楽曲の中でも、最も多く歌われた曲となりました。

アマチュア時代、チェッカーズはドゥーワップを主体とした音楽性を持ち、シャネルズを彷彿とさせるスーツ姿でステージに立っていました。フミヤ自身も後に、「自分たちはアメリカンポップスバンドを目指していた」「ニューミュージック寄りの扱いを受けると思っていた」と語っており、アイドルバンドとして売り出され、チェック柄の衣装で歌謡曲を歌うことに強い抵抗を感じていたことを明かしています。

作曲を手掛けた芹澤廣明氏も、この曲の制作過程で大きな葛藤を抱えていました。芹澤氏は、あまりの嫌悪感に涙を流すほどだったと伝えられています。制作を一時中断したものの、最終的には「やらないと始まらない」という強い意志を持って、このプロジェクトに復帰しました。

「ギザギザハートの子守唄」は、音楽性だけでなく、様々な出来事や思惑が複雑に絡み合った、チェッカーズの歴史において極めて重要な一曲と言えるでしょう。

この楽曲は、意外な場所でその存在感を示すことになります。吉本新喜劇の池乃めだかは、この曲の替え歌を自身の持ちネタとしており、しばしば舞台で披露しています。また、とんねるずの番組『とんねるずのみなさんのおかげです』では、チェッカーズがゲスト出演する度に、池乃めだかの承諾を得て、コントの中でフミヤをイジる場面でこの替え歌が使われていました。

さらに、テレビドラマ『うちの子にかぎって…』でも頻繁に使用され、劇中で歌詞が替え歌で歌われる場面もありました。

音楽的な特徴として、この曲はメロディーからサビまで、ほぼ全ての歌詞が七五調で構成されていることが挙げられます。

歌詞は、元々は作詞家・康珍化氏が俳優の真田広之氏のために書き下ろしたものでした。しかし、真田氏サイドから却下されたため、チェッカーズの楽曲として採用されることになりました。シングルリリースに際しては、売野雅勇氏にも歌詞の書き直しを依頼しましたが、最終的には康珍化氏のオリジナル歌詞が採用されました。この時、売野氏が書いた歌詞は後に、甲斐よしひろ氏によって曲付けられ、竹本孝之氏のシングル「週末（ウィークエンド）ララバイ」としてリリースされました。

また、3番の歌詞にある「仲間がバイクで死んだのさ」というフレーズは、当時チェッカーズの所属事務所であるヤマハ音楽振興会と同系列のヤマハ発動機がオートバイメーカーであったことから、事務所内で問題視されました。しかし、芹澤氏は「駄目ならプロジェクトを降りる」とまで宣言し、この歌詞を通したのです。

「恋のレッツダンス」は、フミヤが作詞作曲したチェッカーズのアマチュア時代の代表曲で、『レッツゴーヤング』の新人特集で披露されています。

「ギザギザハートの子守唄」は、その後も数多くのアーティストによってカバーされ続けました。松居直美、ヴィドール、小見川千明、中原理恵、木下優樹菜、水木一郎、池乃めだか、杜けあき、カントリー・ガールズなど、多様なアーティストがそれぞれの解釈でこの曲を歌い継いでいます。

このように「ギザギザハートの子守唄」は、その誕生から現在に至るまで、様々な出来事や人物と関わり合い、日本の音楽史にその名を刻み込んだ、特別な一曲と言えるでしょう。その独特な曲調、歌詞、そして曲を取り巻く数々のエピソードは、時代を超えて聴く者の心に響き続けることでしょう。

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