ギュスターヴ・フローベール

ギュスターヴ・フローベール（1821年 12月12日 - 1880年 5月8日）は、19世紀フランスを代表する小説家です。彼は写実主義の確立者であり、芸術至上主義を追求した人物として知られています。法律を学ぶ傍ら文学に情熱を燃やし、「文学の修道士」と称されるほど、その生涯を文筆活動に捧げました。

生涯

幼少期から青年期

フローベールは、ノルマンディー地方のルーアンで外科医の息子として生まれました。幼い頃から死や病を身近に感じながら育ち、9歳頃には物語を書き始め、劇作家を夢見て戯曲を執筆するなど、文学への関心を深めていきました。ルーアンの王立中学では、文学や歴史を得意とし、ヴィクトル・ユーゴーやアレクサンドル・デュマなどの作家に影響を受けました。10代の頃には、ロマン主義的な作風の作品を書く一方で、風刺的な小話や好色な物語も手がけていました。1836年の夏には、海水浴場で出会った女性に恋心を抱き、その経験を基に『狂人の手記』を執筆しました。その後、地元の新聞に風刺的な作品を発表し、作家としての第一歩を踏み出しました。

高等学校では、ユゴー、モンテーニュ、サド、ラブレー、ゲーテ、バイロンらに傾倒し、物語や戯曲の執筆に励みました。哲学科に進学したものの、教授との対立から学校を辞め、独学でバカロレア試験に合格しました。合格後、南フランスとコルシカ島を旅行した際、マルセイユで童貞を喪失しました。パリ大学に入学して法律を学びましたが、学問に馴染めず苦労しました。パリでは、憧れの作家ユゴーと対面したり、以前出会ったシュレザンジェ夫妻と再会したりしました。また、マクシム・デュ・カンと出会い、生涯の親友となりました。

隠棲と執筆活動

1844年、フローベールは体調を崩し、法律の勉強を諦めざるを得なくなりました。父親は、彼のためにルーアン近郊に館を建て、そこでフローベールは執筆活動に専念することができました。この時期に『感情教育』の初稿を書き上げましたが、出版はしませんでした。1846年には、父親と妹を相次いで亡くすという不幸に見舞われ、姪を引き取って生活することになりました。その後、パリで出会ったルイーズ・コレと恋愛関係になりますが、破局を迎えました。

『ボヴァリー夫人』の発表

1847年、フローベールはマクシム・デュ・カンと旅行に出かけ、帰国後、旅行記を執筆しました。1848年の二月革命では、パリで革命の光景を目撃し、この経験は後に『感情教育』に反映されました。その後、『聖アントワーヌの誘惑』を執筆しましたが、友人たちの批判を受け、執筆を中断しました。1849年には、デュ・カンと共にオリエント旅行に出かけ、その際に梅毒に感染しました。

1851年、帰国後に『ボヴァリー夫人』の執筆を開始しました。この作品は、姦通をテーマにしたもので、緻密な描写と客観的な視点が特徴です。4年半の歳月をかけて完成させた『ボヴァリー夫人』は、『パリ評論』に掲載され、大きな反響を呼びました。1857年には、公衆道徳違反の罪で裁判にかけられましたが、無罪を勝ち取りました。その後、『ボヴァリー夫人』は書籍として出版され、ベストセラーとなり、フローベールは一躍有名になりました。

その後の作家生活

『ボヴァリー夫人』の成功後、フローベールは『聖アントワーヌの誘惑』の改作に取り組み、古代カルタゴを舞台にした『サランボー』を執筆しました。作品ごとに膨大な資料を読み込み、文体を練り上げるという創作スタイルは、寡作な作家生活を送る要因となりました。1858年には、『サランボー』の舞台を視察するためにチュニスを旅行しました。

1862年、『サランボー』を完成させました。その後、自伝的な作品『感情教育』を発表しましたが、批評家からの評価は低く、フローベールは落胆しました。その後、普仏戦争の影響で執筆を中断し、晩年は経済的な苦境に陥りましたが、友人たちの支援で何とか生活を維持しました。

死と遺産

1880年、フローベールは『ブヴァールとペキュシェ』を完成させることができず、クロワッセの自宅で亡くなりました。彼の遺体はルーアンの記念墓地に埋葬されました。

フローベールの文学は、写実主義から自然主義へと続く文学の流れを準備しました。また、徹底した文体の彫琢によって作者の痕跡を消し去り、作品をそれ自体で成り立たせようとした彼の試みは、現代文学の先駆的なものとして評価されています。

主要作品

『狂人の手記』（1838年）
『十一月』（1842年）
『ボヴァリー夫人』（1857年）
『サランボー』（1862年）
『感情教育』（1869年）
『聖アントワーヌの誘惑』（1874年）
『三つの物語』（1877年）
『ブヴァールとペキュシェ』（1881年）
『紋切型辞典』 (遺作)

後世への影響

フローベールの作品は、ゾラやモーパッサンなどの自然主義作家に大きな影響を与えました。また、カフカやプルーストなどの現代作家にも影響を与え、その文学的な遺産は今日まで受け継がれています。

参考文献

トロワイヤ『フロベール伝』
『フローベール全集』筑摩書房
フローベール『フロベールのエジプト』
フローベール『ブルターニュ紀行野を越え、浜を越え』
『往復書簡サンド＝フロベール』
マクシム・デュ・カン『文学的回想』
アルベール・ティボーデ『ギュスターヴ・フロベール』
ジャン＝ポール・サルトル『家の馬鹿息子』
マリオ・バルガス・リョサ『果てしなき饗宴』
* 『フローベール　ポケットマスターピース07』集英社文庫ヘリテージシリーズ

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