ギリヤーク尼ヶ崎

ギリヤーク尼ヶ崎（本名：尼ヶ崎勝見）は、1930年8月18日、北海道函館市に生まれました。その芸名の由来は、ロシア・サハリンの先住民族であるギリヤークに風貌が似ていることにあります。彼は、幼少の頃から大道芸に親しみ、器械体操にも秀でていました。1946年には国民体育大会に体操競技の北海道代表として出場しています。

映画俳優を目指して上京するも、方言が理由でオーディションに落選。その後、邦正美に師事し、舞踊家として活動しましたが、なかなか芽が出ず、警備員やビル清掃の仕事をしながら生活を支えていました。30代になり、自らの芸を追求するため大道芸に転向。1968年、38歳で初めて街頭公演を行いました。その独特の舞踏は「鬼の踊り」と称され、観客から熱狂的な支持を得ました。「最後の大道芸人」とも呼ばれ、その前時代的なプロフェッショナル意識は多くの人々を魅了しました。1975年以降は、フランス、アメリカ、韓国、ロシア、中国など、海外でも公演を行っています。

1995年の阪神・淡路大震災では、被災地である神戸市長田区の焼け野原で鎮魂の踊りを舞いました。その際、被災者たちの祈りに圧倒され、自身の踊りの本質が「祈り」であることを悟ったと言います。これを機に、芸風は「鬼の踊り」から「祈りの踊り」へと変化しました。また、2001年のアメリカ同時多発テロ事件の1年後には、ニューヨークで鎮魂の舞を披露しました。

東日本大震災の際には、被災地である宮城県気仙沼市で「祈りの踊り」を踊り、自ら「43年間で最高の踊り」と評しました。この時、心臓にペースメーカーを付け、椎間板ヘルニアを抱えながらも踊り続けました。2016年にはパーキンソン病と脊柱管狭窄症と診断されながらも、精力的な活動を続けています。2018年には、青空舞踊公演50周年を迎え、北海道胆振東部地震の被災地で復興を願う公演も行いました。2024年5月の公演では、93歳ながら「じょんがら一代」「よされ節」「念仏じょんがら」を踊り切り、観客を感動させました。

尼ヶ崎は、大道芸人としての活動にこだわり、東京都が導入した大道芸免許制度には批判的です。生計を観客からの「おひねり」で立てることに誇りを持ち、年金については「年金ってなんですか？」と聞き返すほどです。海外での公演では、フランス警察に赤フンを止めるように求められたというエピソードもあります。

兵庫県尼崎市には特別な思い入れがあり、春季公演の会場として阪神電車尼崎駅北広場を選んでいます。伊丹十三、大島渚、寺山修司、近藤正臣といった著名人とも親交があり、彼らは尼ヶ崎の舞を高く評価していました。2016年には、北海道新聞文化賞特別賞を受賞しています。

主な演目として、「念仏じょんがら」は黒衣を纏い、祈りを捧げながら「ナムアミダー！」と叫び、観客の輪を抜けて冷水を浴びて転げ回る激しい踊りです。入れ歯を外すことで老人化する演出も特徴的です。「涅槃じょんがら」は激しい動きと表情の変化が見どころですが、最近では省略されることが多いです。「じょんがら一代」は津軽三味線の音色に合わせて激しい動きを見せる演目。「夢」はピエロ風の衣装で赤いバラを持って舞う。「白鳥の湖」はサン＝サーンスの「白鳥」を使用し、穴の開いた衣装で踊られる。「うかれおわら」は出雲阿国に捧げた女性的な舞。「よされ節」は観客と一緒に踊るコミカルな舞。「念力」は赤フン姿で舞う。「老人」はマルセル・マルソーの演目からヒントを得た、老いへと変化していく短時間の演目。「果たし合い」は近藤正臣から借り受けた刀の鍔を用いた、剣戟のないチャンバラの踊りです。

映画では、『豚鶏心中』『爆裂都市 BURST CITY』『さらば箱舟』『タンポポ』などに出演。自主制作映画も制作し、自身のドキュメンタリー映画も多数発表しています。テレビ番組では、NHKのドキュメンタリー番組や大河ドラマ、TBSやフジテレビのドキュメンタリー番組にも出演しています。著書には『鬼の踊り:大道芸人の記録』『じょんがら一代』『ギリヤーク尼ヶ崎 「鬼の踊り」から「祈りの踊り」へ』などがあります。関連図書も多数出版されており、その生き様は多くの人々に影響を与えています。

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