ギルバン・ユッダ・ビクラム・シャハ

ギルバン・ユッダ・ビクラム・シャハ（Girvan Yuddha Bikram Shah、1797年 10月19日 - 1816年 11月20日）は、ネパール王国の歴史において、第4代の君主として名を連ねる人物です。在位期間は1799年から1816年まで。父は先代である第3代国王ラナ・バハドゥル・シャハでした。

誕生と異例の即位

ギルバン・ユッダは1797年 10月19日、ラナ・バハドゥル・シャハの息子として生を受けました。生母は、父王が深く寵愛したブラーフマナの家系の娘、カンティワティー・デビー内妃です。彼の人生は早くも波乱に見舞われます。1799年、生後わずか1歳2ヶ月という極めて幼い年齢で王位を継承することになったのです。これは、父ラナ・バハドゥルが突然、世俗を離れて禁欲的な生活を送ることを決意し、自ら王位から退いたためでした。しかし、この譲位は、父に当時すでに年長の嫡子ラノディヨートがいたにもかかわらず、幼いギルバン・ユッダが後継者に指名された異例の決定でした。このため、王国の主要な重臣95名はこの決定を承認する起請文（誓約書）の作成を強いられたと伝えられています。また、その戴冠式には、当時ネパールの西隣で最も強力な勢力であったパルパ王国のプリトヴィーパーラ・セーナ王が特別に招かれ、異例の即位に正当性を持たせようとしたと考えられています。

幼少期の摂政体制と拡大政策

あまりにも幼くして国王となったギルバン・ユッダ自身が、政務を執ることは事実上不可能でした。彼の治世は、複数の有力者による摂政体制の下で進められました。主な摂政としては、退位した父ラナ・バハドゥル自身、王太后ラージ・ラジェシュワリー・デビー、そして王国の実権を掌握していた強力な宰相ビムセン・タパが挙げられます。特にビムセン・タパは、この時代のネパールの国政を主導した中心人物です。この摂政体制の下、ネパール王国は積極的な対外拡大政策を推し進めました。西方の諸国を次々と併合し、中でも強国であったパルパ王国を領土に組み入れたことは特筆されます。ネパール王国の勢力圏は、その版図を西方へと広げ、遠く現在のインド北部を流れるサトレジ川のほとりにまで到達しました。この時期は、ゴルカ朝（ネパール王国）が地理的に最大の領域を支配した時代の一つと言えます。

グルカ戦争と国土の喪失

しかし、急速な領土拡大は新たな強敵との摩擦を生みました。ネパールの勢力拡大は、南アジアにおける覇権を確立しつつあったイギリス東インド会社との利害衝突を招くことになります。両者の緊張が高まる中、ついに1814年から1816年にかけて「グルカ戦争」、あるいは「英・ネパール戦争」として知られる大規模な武力衝突が勃発しました。ネパール軍の兵士たちは勇敢に戦いましたが、産業革命を経て軍事力で優位に立つイギリス東インド会社の近代的な装備や組織力には敵いませんでした。激しい戦いの末、ネパール王国は敗北を喫します。その結果、1816年に締結されたスガウリ条約によって、ネパールは征服した広大な西方領土や、経済的に重要なタライ地方の一部など、国土のおよそ3分の1にあたる領域をイギリス東インド会社に割譲せざるを得なくなりました。この戦争は、ネパール王国のその後の国際的な地位を大きく変えることとなりました。スガウリ条約以降、ネパールは事実上、イギリスの保護国としての性格を強めることになります。同時に、ネパールは古くから維持していた清朝（中国）への朝貢関係も続けていたため、イギリスの保護国でありながら清朝の朝貢国でもあるという、極めて特異な二重の国際的地位に置かれることになりました。この状態は、清が辛亥革命によって滅亡する1912年まで、約1世紀にわたって維持されることになります。

短い生涯の終焉

グルカ戦争が終結した直後の1816年、ネパールの首都カトマンズ盆地では天然痘が大流行しました。この疫病は急速に広がり、多くの住民の命を奪いました。若き国王ギルバン・ユッダもまた、この流行の犠牲者の一人となりました。彼は1816年 11月20日、わずか19歳で短い生涯に幕を下ろしました。彼の崩御後、王位は彼の息子であるラジェンドラ・ビクラム・シャハに引き継がれました。

ギルバン・ユッダ・ビクラム・シャハの治世は短かったものの、ネパール王国が領土拡大の頂点を迎え、同時に強大なイギリスとの衝突を経て国土を失い、その後の国際関係が決定づけられるという、極めて重要な時期でした。彼の生涯は、ネパールの激動の時代と深く結びついています。

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