グルカ戦争

グルカ戦争（1814年～1816年）

グルカ戦争は、イギリス東インド会社とネパール王国（当時のゴルカ朝）の間で繰り広げられた武力紛争です。この戦争は、国境紛争と両国の領土的野心が複雑に絡み合って発生しました。グルカとは、ゴルカの英語読みであり、この地域を支配していた勢力を指します。この戦争は、ネパール戦争や英・ネパール戦争とも呼ばれています。

歴史的背景

ゴルカの勃興

18世紀以前、カトマンズ盆地はカトマンズ、パタン、バクタプルという三つの王国が互いに争い、外部からの脅威に対する警戒が薄れていました。しかし、1769年にゴルカ王プリトビ・ナラヤン・シャハが盆地を征服し、近代ネパール王国の基礎を築きました。これに先立ち、盆地の王たちはゴルカの拡大を恐れ、イギリスに支援を求めましたが、派遣されたイギリス軍はゴルカ軍に圧倒され、逆に火器を与えてしまうという失態を犯しました。カトマンズ盆地の征服は、ゴルカの領土拡大の第一歩に過ぎず、1773年までに東ネパール全土を、1788年までにはシッキムの西部を併合しました。西側では、1790年までにカリ川に至る地域を支配下に置き、クマーウーン地方とその首都アルモーラーもゴルカに屈服しました。

清朝との衝突

北方では、ネパールはチベットとの間で貨幣の交換レートや、亡命したカルマ派のシャマルパ・トゥルクの問題を解決するため、1789年から1789年と1791年から1792年の2度にわたりチベットに侵攻しました。一時的にチベット第二の都市シガツェを占領しましたが、清朝の介入により撤退を余儀なくされました。清朝は巨大な軍隊を派遣し、ネパール軍をチベットから追い払い、カトマンズ近郊まで進軍しました。この時、ネパールはイギリスに助けを求めましたが、イギリスは清との衝突を恐れ、仲介に留まりました。結果、ネパールはチベットにおける貿易特権を失い、5年ごとに北京に朝貢するという屈辱的な条約を結ばされました。

イギリスとの緊張、衝突

ネパールの領土拡大

清・ネパール戦争はガルワール王国への攻撃を遅らせましたが、1804年には同王国もゴルカの支配下に入りました。一方、イギリスも東インド会社を通じて勢力圏を拡大し、アワド地方を支配下に置いたことで、ゴルカとの国境が近づきました。パルパ王国を巡るゴルカの猜疑心が、イギリスとの深刻な国境紛争を引き起こしました。ゴルカ軍はタライ平原への侵入を開始し、緊張が高まりました。イギリスは、カルカッタ（コルカタ）とインド北西部を結ぶ連絡路が脅かされることを危惧し、両国の対立は避けられない状況となりました。

両国の対立

ゴルカは東はシッキム、西はクマーウーンとガルワール、南はイギリス勢力圏のアワドまで勢力を拡大しました。イギリス東インド会社もカルカッタ、マドラス、ボンベイを拠点に勢力を広げていました。イギリスはマラーター戦争で抵抗を受けており、パンジャーブ地方ではランジート・シングが勢力を拡大していたため、ゴルカとの早期決着を望んでいました。ゴルカ内部でも、イギリスとの戦いに対する意見が分かれ、アマル・シンハはイギリスの力を警戒しましたが、宰相ビムセン・タパはネパールの地理的優位性を主張し、楽観的な見通しを持っていました。直接の衝突はタライ地方の領有をめぐる争いから始まり、1814年11月にイギリスが宣戦布告しました。

戦争

第一次戦役

イギリスは3万近い兵力を5方面からネパールに侵入させました。東部戦線ではベネット・マーレイ少将とジョン・サリヴァン・ウッド少将がカトマンズ盆地を目指しましたが、消極的な作戦に終始しました。西部戦線ではロロ・ジレスピー少将がナラパニの戦いで戦死し、その後、ガブリエル・マーティンデル少将が指揮を引き継ぎましたが、ジャイタクの戦いで敗北しました。しかし、デイビッド・オクターロニー大佐は、慎重かつ着実にアマル・シンハの軍を追い詰め、1815年4月にはデウタルの要塞を奪取しました。続くデウタルの戦いで、アマル・シンハの有能な中尉バクティ・タパが戦死し、アルモラの陥落を知ったアマル・シンハ・タパは降伏しました。

第二次戦役

第一次戦役の後、カトマンズの王宮は講和条約の批准を拒否し、第二次戦役が始まりました。イギリスはオクターロニーを司令官に起用し、2万の精鋭を率いてネパールに侵攻しました。1816年2月28日、マクワンプルの戦いとハリハーパー要塞の陥落により、ネパールは首都カトマンズが脅かされ、条約の批准を余儀なくされました。

影響

スガウリ条約

1816年3月4日に批准されたスガウリ条約によって、ネパールはシッキム、クマオン、ガルワール、そしてタライ平原の大部分を失いました。東インド会社はタライ地方からの収入減を補償するため、毎年20万ルピーをネパールに支払うことになりました。しかし、タライ地方の統治が難しいため、同年12月にネパールに返還され、補償金も廃止されました。ネパールの東の境界はメチ川、西はマハカリ川に定められ、イギリス公使がカトマンズに駐在することになりました。

グルカ兵の調達

イギリスはグルカ兵の戦闘能力を高く評価し、早い段階から彼らを英軍に採用しようとしていました。オクターロニーはゴルカ兵の忠誠心を信じ、脱落者たちを英軍の非正規兵力として雇用しました。1815年4月、ロス中尉は彼らを大隊に編成し、ナシリ連隊と名付けました。スガウリ条約締結後、約5000人のグルカ兵が英軍に入隊し、後に「チーム・グルカ」として英軍、印軍の中核を担うようになりました。ウィリアム・フレーザーとフレデリック・ヤング中尉はサーモア大隊（後の「エドワード7世直参第二グルカ銃兵隊」）を、クマオン大隊（後の「アレクサンドラ女王直参第三グルカ銃兵隊」）を組織しました。

脚注

参考文献

（日本語）佐伯和彦『世界歴史叢書 ネパール全史』明石書店、2003年。
（日本語）佐藤長「第一次グルカ戦争について」『中世チベット史研究』第12論文、同朋舎,1986 ISBN 4-8104-0492-7, pp.521-596
（日本語）佐藤長「第二次グルカ戦争について」『中世チベット史研究』第13論文同朋舎,1986 ISBN 4-8104-0492-7, pp.597-740
（英語）Gould, Tony. Imperial Warriors – Britain and the Gurkhas, 2000,Granta Books ISBN 1-86207-365-1

外部リンク

History of Nepal
Anglo Nepalese War
Indian-Nepalese border; The Tarai region
The Sugauli Treaty

関連項目

ネパール王国
イギリス東インド会社
グルカ兵
グルカ旅団
* 欽定蔵内善後章程

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