クサイ・サッダーム・フセイン

クサイ・サッダーム・フセイン：サッダーム後継者としての栄光と悲劇

クサイ・サッダーム・フセイン（1966年5月17日-2003年7月22日）は、イラク元大統領サッダーム・フセインの次男として、1966年バグダードに生まれた。兄ウダイとは対照的に、物静かで計算高い性格として知られていた。バグダード大学政治学部を卒業後、波乱に満ちた人生を歩むことになる。

若き日のクサイは、あるホテルでサウジアラビアの外交官とトラブルを起こし、投獄されるという事件を起こしている。その後、イラク・イラン戦争の英雄マーヒル・アブドゥルラシード将軍の娘と政略結婚するが、父親同士の不和により離婚に終わる。この結婚は、サッダーム家における社会的地位向上を狙ったものだったといわれる。

クウェート侵攻後、クサイは略奪行為や、シーア派住民への弾圧、湿地帯住民虐殺など、数々の残虐行為に関与したとされる。湾岸戦争後の国際連合査察への妨害活動にも深く関与し、大量破壊兵器の隠蔽に奔走した。また、一族内での権力闘争において、叔父や兄の失脚を経て、サッダームの後継者としての地位を確立していく。

1990年代初頭には、イラクの治安・情報機関・治安部隊の大半を掌握。公式な肩書こそなかったものの、共和国防衛隊の監督者、イラク特別部隊司令官、大統領警護機関長官などを歴任し、事実上の権力者となっていく。さらに、兄ウダイが率いる民兵組織「フェダーイーン・サッダーム」の司令官に就任し、兄から指揮権を奪うなど、権力基盤を強固なものにしていった。

クサイは、数々の反乱の鎮圧や反政府活動家の殺害にも関与したとされ、イラクの恐怖政治の中枢にいた人物だったといえる。スンナ派やシーア派の反乱を武力で鎮圧し、大アーヤトッラー・ムハンマド・サーディク・アッ＝サドルの暗殺にも関与したとされている。政治犯の処刑なども行い、数千人もの人々の命を奪ったとされる。米英軍による「砂漠の狐作戦」やイラク戦争においても、重要な役割を果たし、首都バグダード防衛の責任者としてアメリカ軍と対峙した。

2000年には非常時における臨時大統領代行に指名され、2001年にはバアス党軍事局副議長に任命されるなど、正式な公職に就くこととなる。これは、クサイがサッダームの後継者として正式に承認されたことを意味していた。しかし、2002年には暗殺未遂に遭うなど、常に危険な立場にあった。

イラク戦争勃発後、クサイは何度も国営テレビに出演したが、米誌『タイム』によると、精神的に不安定な状態にあったという。バグダード陥落間際には、共和国防衛隊の配置を誤り、アメリカ軍の進撃を許す結果となった。その後、サッダームと共にバグダードに現れ、熱狂的な民衆に取り囲まれる様子が報道された。シリアへの亡命も計画されたが、断念し、イラク国内で潜伏生活を送ることとなる。

2003年7月22日、モースルにある隠れ家でアメリカ軍との銃撃戦の末、死亡した。この時、彼の14歳の息子ムスタファーも死亡したとされる。アメリカ軍は、ウダイとクサイ兄弟の遺体を公開し、生存説を否定した。この行為は、国際的な批判も招いたが、アメリカ側は戦闘員であるとして正当性を主張した。クサイの遺体は、父サッダームと共に、ティクリートのアル＝アウジャ村の墓地に埋葬されている。

クサイ・サッダーム・フセインの生涯は、イラクの権力闘争と恐怖政治、そして戦争と死が交錯する激動の時代を象徴するものであった。彼の残虐行為は多くの犠牲者を出し、イラクの歴史に暗い影を落とした。彼の人生は、権力への野望と悲劇的な結末の物語として、後世に語り継がれるだろう。

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