クチュ (メルキト部)

クチュ（Küčü）

クチュは、モンゴル帝国初期の人物で、オッチギン王家に仕えた千人隊長の一人です。ウドイト・メルキト部族の出身であり、『モンゴル秘史』には曲出(qūchū)または古出(gŭchū)と記されています。

生涯

『モンゴル秘史』によれば、テムジン（後のチンギス・カン）がボルテを奪還するためにケレイト部のトオリルやジャムカの協力を得てメルキト部を破った際、クチュはメルキトの牧地に残されていました。貂の帽子、鹿皮の靴、獣皮の上着を身につけた「眼に火ある」五歳児だったと伝えられています。テムジンの兵士によって発見されたクチュは、テムジンの母ホエルンに贈られ、彼女によって育てられました。

ホエルンは、クチュの他にココチュ、シギ・クトク、ボロクルといった人物も育てており、彼らはホエルンにとって子供同然の存在でした。しかし、クチュとココチュの出自は『モンゴル秘史』以外には記録がなく、ボロクルを養子とする史料も存在しません。シギ・クトクについても、『集史』では養子とされていますが、養母がホエルンではなくボルテであるなど、詳細が異なっています。そのため、ホエルンが4人の養子を育てたという逸話の信憑性については疑問視する声もあります。

成長後のクチュの活動に関する記録は少ないですが、チンギス・カンがモンゴル高原を統一し、モンゴル帝国を建設した際には、95人の千人隊長の一人に数えられています。その後、チンギス・カンが95の千人隊のうち5つを末弟のテムゲ・オッチギンに分け与えた際、クチュの千人隊も含まれ、クチュはオッチギン王家の王傅に任じられました。

『集史』「チンギス・カン紀」によると、テムゲ・オッチギンにはオロナウル・ケレングト部の2千人隊、ベスト部の1千人隊、ジャジラト部などからなる3つの千人隊が与えられたと記されており、クチュの千人隊は「ジャジラト部などからなる3つの千人隊」のいずれかに含まれていたと考えられます。

モンゴル帝国建国初期には、コンゴタン部出身のシャーマン、ココチュが宗教的権威を背景に権勢を誇っていました。ココチュの一族がチンギス・カンの弟であるジョチ・カサルを打ち据える事件が発生しましたが、チンギス・カンは他の事に気を取られ、ジョチ・カサルの訴えを聞き入れませんでした。この一件に悩んだジョチ・カサルが数日間チンギス・カンに会わなかった際、ココチュはジョチ・カサルが帝位を狙っていると吹き込みました。異心を疑ったチンギス・カンがジョチ・カサルの元へ向かおうとした際、クチュとココチュはホエルンに事態を報告し、ホエルンの説得によってジョチ・カサルは救われました。

これ以降のクチュの活動については、記録が残っていません。

初期オッチギン・ウルスの5千人隊長

メルキト部のクチュ
ベスト部のココチュ
ジャジラト部のジュスク
出身部族不明のコルコスン
オロナウル部の千人隊長

参考文献

宇野伸浩「チンギス・カン前半生研究のための『元朝秘史』と『集史』の比較考察」『人間環境学研究』7号、2009年
杉山正明『モンゴル帝国と大元ウルス』京都大学学術出版会、2004年
村上正二訳注『モンゴル秘史 1巻』平凡社、1970年
村上正二訳注『モンゴル秘史 2巻』平凡社、1972年
村上正二訳注『モンゴル秘史 3巻』平凡社、1976年

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