クネイトラ県

クネイトラ県：紛争と変容の歴史

シリア南西部に位置するクネイトラ県は、その歴史の大部分を紛争と領土問題に彩られてきました。1967年の第三次中東戦争、そして1973年の第四次中東戦争を経て、県土の大部分がイスラエルに占領され、現在では係争地であるゴラン高原の一部となっています。この複雑な歴史が、クネイトラ県の現状を決定づけています。

地理と自然環境

クネイトラ県は、シリア、レバノン、イスラエル、そしてヨルダンの国境地帯に位置する、地理的に重要な地域です。東はダルアー県、北はレバノンとダマスカス郊外県、西はイスラエル、そして南はヨルダンと接しています。県土の大部分は、溶岩流によって形成された高原地帯であり、かつては肥沃な土壌を活かした小麦栽培が盛んに行われていました。しかし、戦争による荒廃と領土問題によって、この豊かな土地は大きくその姿を変えています。

歴史：紛争と領土問題

中世には周辺地域と同様に荒廃した時期もありましたが、近代に入ると、ロシアなどからのムスリム移民の流入を受け、多くの村や町が形成されました。しかし、20世紀半ばの中東戦争によって、クネイトラ県の運命は大きく変わることになります。戦争の結果、県の大部分がイスラエルに併合され、シリアに残されたのはドゥルーズ派の農村の一部のみとなりました。戦争前の村落跡地には、イスラエル人が建設したキブツが立ち並び、その土地利用は大きく様変わりしました。

県都であるクネイトラ市は、第四次中東戦争後、シリアに返還されましたが、現在も廃墟と化したままです。国際連合兵力引き離し監視軍（UNDOF）が管轄する、シリアとイスラエル間の兵力引き離し地帯に位置しており、その現状は、この地域の紛争の歴史を象徴的に示しています。事実上の県都は、ハーン・アルナバに移されています。

イスラエルにおける領土問題の議論において、クネイトラ県は重要な役割を果たしました。1970年代、イスラエル副首相を務めたイーガル・アロンは、ヨルダン川西岸地区の安定化を目指した「アロン・プラン」を提案しました。この計画には、ゴラン高原を含むクネイトラ県にドゥルーズ派国家（ジャバル・ドゥルーズ）を建国するという案が含まれていましたが、西岸へのユダヤ人入植が進む中で頓挫しました。その後、1981年にはゴラン高原法がイスラエル国会で可決され、イスラエルの法をゴラン高原に適用することになりました。これは、公式には併合とは謳われていませんでしたが、事実上の併合と広くみなされています。

行政区分

現在のクネイトラ県は、2つの郡から構成されています。

フィク郡（Fiq District）：かつてのフィク（現在のイスラエルのアフィク・キブツ周辺）を中心とした地域。
クネイトラ郡（Quneitra District）：県都クネイトラを中心とした地域。現在、クネイトラ市は廃墟となっており、事実上機能していません。

クネイトラ県の現状は、中東における長年にわたる紛争と、領土問題の複雑さを如実に示しています。その歴史と現状は、平和と安定への道のりを示唆する重要な事例と言えるでしょう。

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