クライスラー・ホライズン

タルボット・ホライズン/シムカ・オリゾン：ヨーロッパを席巻したコンパクトカー

タルボット・ホライズン（フランスではシムカ・オリゾンとして販売）は、クライスラーが1978年から1986年まで製造販売したコンパクトカーです。クライスラーの欧州部門がPSAグループ傘下となった1979年以降は、タルボットブランドで販売されました。 この車は、クライスラーの世界戦略車として、アメリカで発売されたダッジ・オムニ/プリムス・ホライゾンと並行して開発されました。

開発とデザイン

開発はシムカ社で行われ、プロジェクトC2というコードネームが付けられました。機構的にはシムカ1307/1308をベースに小型化された設計でしたが、デザイン面では当時、小型車のベンチマークとなっていたフォルクスワーゲン・ゴルフIの影響を強く受けています。注目すべきは、全長4m以下のコンパクトカーとしては異例なほど広いトレッドです。これにより、全幅は1680mmとなり、ベースとなった1307/1308よりも広い車幅となりました。この設計は、小型車開発で遅れを取っていたアメリカ市場への進出を視野に入れた結果でした。

エンジンとパワートレイン

エンジンは、シムカ1100からの1118ccと1294ccの水冷直列4気筒エンジンに加え、1307/1308と共通の1442ccエンジンを搭載していました。一方、アメリカで販売されたダッジ・オムニとプリムス・ホライゾンは、1700ccのSOHCエンジンを搭載しており、ヨーロッパ仕様とは大きく異なっていました。

受賞と生産

ゴルフに代表される当時の流行を取り入れたスタイリッシュなデザイン、優れた居住性と乗り心地、そしてクライスラー初の「ワールドカー」という点が高く評価され、ホライズン/オリゾンは1979年のヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。これは、シムカ1307/1308に続く快挙でした。

生産は主にシムカのポワジー工場で行われ、当初はクライスラーUKへの供給分もフランスからの輸入でしたが、1982年よりイギリスのライトン工場でも生産が開始されました。さらに、スペインのバレイロス社やフィンランドのSaab-Valmet社でも生産され、フィンランド生産車にはサーブの部品が一部使用されたモデルもありました。特筆すべきは、ケロシンやテレピン油を燃料とする仕様も2385台生産されたことです。

モデルの変遷と改良

1978年夏の発売後、クライスラー欧州部門のPSAグループへの買収に伴い、1979年からはタルボット・ホライズン/タルボ・オリゾンに名称変更され、フロントグリルも変更されました。

1981年にはマイナーチェンジを行い「シリーズII」となりましたが、この時点では競争力は低下していました。フォルクスワーゲン・ゴルフはIIへモデルチェンジ、ボクスホール・アストラやフォード・エスコートも新型モデルが登場するなど、競合車に後れを取っていました。OHVエンジンやボディの腐食も問題視されていました。また、ゴルフGTIに代表されるようなホットハッチモデルも設定されていませんでした。

1984年モデルからは、PSAグループ傘下になった成果として、プジョー製の5速ギアボックスが標準化され、バンパーが黒塗りになり、リアシェルフの位置が変更されリアウィンドウの天地寸法が小さくなりました。上級モデルにはエコノメーター機能付きタコメーターが搭載され、プジョー製の1905ccディーゼルエンジン搭載モデルも追加されました。

1985年には内外装がさらにマイナーチェンジされ、イギリスではグレードが整理されました。生産は1985年夏に英仏で、1987年にスペインとフィンランドで終了し、後継車種はプジョー309となりました。

バリエーションとグレード

ホライズン/オリゾンには、様々なエンジンバリエーションとグレードが存在しました。ガソリンエンジンは1118cc、1294cc、1442ccが用意され、ディーゼルエンジンは1905ccモデルも存在しました。グレードにはGL、GLE、LS、LX、GLX、GLS、SXなどがあり、上級グレードにはデジタル時計やトリップコンピュータなどの豪華装備が搭載されたモデルもありました。フランス独自の低燃費モデル「EX」や高性能モデル「プレミアム」も存在しました。さらに「プルマン」「ウルトラ」「シルバーフォックス」「サマータイム・スペシャル」などの限定モデルも生産されました。

タルボット・ホライズン/シムカ・オリゾンは、時代を反映したデザインと技術、そして様々なバリエーションによって、当時のヨーロッパ市場で重要な地位を占めたモデルでした。

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