クライスラー・PTクルーザー

PTクルーザー（英語: PT Cruiser）は、アメリカの自動車メーカーであるクライスラー（現在のステランティス・ノースアメリカ）が製造・販売していた、トールワゴン型の乗用車です。

概要

PTクルーザーの最も目を引く特徴は、そのレトロモダンな外観デザインにあります。1930年代にクライスラーが生産したセダン「エアフロー」からインスピレーションを得ており、現代的な解釈を加えつつ、ボディ全体に施された曲線を多用した意匠が強い個性を放っています。このデザインは、ブライアン・ネスビット氏が担当しました。

開発当初は、クライスラー・ネオンなどに用いられていたクライスラー・PLプラットフォームを基盤とする計画でしたが、最終的にはこのモデル専用のプラットフォームが開発・採用されました。元々はプリムスブランドから発売される予定でしたが、さまざまな事情により、クライスラーブランドでの発表・販売に至りました。

日本国内に正規輸入されたモデルは、基本的に右ハンドル仕様のみでした。過去には左ハンドルのみの高性能グレード「GT」やコンバーチブルモデル「カブリオ」も導入されましたが、GTは2007年モデルで廃止され、カブリオも2007年モデルで右ハンドル化された後、2008年モデルで販売を終了しました。なお、米国市場では、後部側面が窓ではなくパネルとなった3ドアの商用バン「パネルクルーザー」もラインナップされていました。

その奇抜なデザインとは対照的に、室内空間は乗員の快適性や使い勝手を考慮して綿密に設計されています。コスト削減の一環としてインストルメントパネル（インパネ）中央部に集約されたパワーウインドウスイッチは、慣れればスムーズに操作できるとの声もありました。初期型でドライバーにとって不便とされていたステアリング上のハザードスイッチも、2006年のインパネ大幅改良時にインパネ中央へと移設され、操作性が改善されています。ヘッドランプのバルブ交換は、一般的なエンジンルーム側からではなく、フロントのインナーフェンダーにあるカバーを取り外して行う構造となっています。

一方で、運転性や取り回しにおいては、いくつかの留意点があります。前輪の操舵角が狭いため、最小回転半径が6.2メートルと比較的大きく、同クラスの車両と比較すると小回りが利きにくい部類に入ります。また、5ドアモデルの全高は1,600mmを超えており、特に日本の多くの機械式立体駐車場では高さ制限により入庫が難しい場合があります。

歴史

PTクルーザーは、2000年に米国で販売を開始しました。当初は2.4リッターエンジンを搭載し、メキシコのトルーカ工場で生産されました。同年7月には日本でも発売され、初期の日本向けモデルには2.0リッターエンジンが搭載されました。日本仕様は2002年モデルまでオーストリアのユーロスター工場で生産されましたが、2003年モデル以降は米国仕様と同じくトルーカ工場製となりました。

その後の主な改良と展開は以下の通りです。

2002年: バンパーが無塗装の黒樹脂からボディ同色に変更される小改良を実施。特別仕様車「PTストリートクルーザー」を発売。また、アンテナ形状の変更やヘッドレスト調整機能の廃止などの年次改良が行われました。
2003年: グレード体系の見直しが行われ、新たに「ツーリング」グレードが設定されました。シフトノブの形状変更や、アンテナ位置がフロントフェンダー上からルーフ後端中央へ移動する変更がありました。特別仕様車「PTストリートクルーザー2」も発売。
2004年: 日本向けモデルも2.4リッターエンジンが標準となり、ターボエンジン搭載の高性能モデル「GT」が日本にも導入されました。米国では2ドア4シートのコンバーチブルモデルが追加され、日本では「カブリオ」として発売されました。
2005年: リアゲートのハンドルが電磁式に変更されるなどの小改良が実施されました。シフトノブの色も内装色に合わせる変更が行われました。GTには特別仕様車「GTストリートスター」が設定されました（その後、日本におけるGTの販売は終了）。
2006年: 内外装が大幅にリニューアルされました。ダッシュボード、ヘッドライト、フロントグリルなどが一新され、より洗練された印象になりました。特別仕様車「PTストリートクルーザー・ルート66」を発売。
2007年: グレード体系が見直され、「ツーリング」と「GT」の販売が終了しました。日本向けのカブリオが右ハンドル仕様に変更されました。特別仕様車「PTストリートクルーザー・パシフィックコーストハイウェイエディション」を発売。
2008年: 小改良が行われ、「リミテッド」グレードには17インチアルミホイールが採用されました。この改良をもってカブリオは生産・販売を終了しましたが、日本では2007年モデルの在庫が継続して販売されました。
2009年: 小改良により、6連奏CDオートチェンジャーやサブウーファー付きのボストンアコースティック製スピーカーが標準装備となり、オーディオ環境が充実しました。
2010年4月1日: クライスラーはPTクルーザーの生産中止を発表し、同時に日本での販売終了もアナウンスされました。日本向け最終モデルとして、限定50台の「ファイナルエディション」が販売されました。
2010年 7月9日: 生産を終了。約10年間にわたり生産され、総生産台数は約135万台に達しました。

タクシーとしての採用例

そのユニークなデザインから、一部でタクシー車両としても採用された例があります。2002年には千葉県浦安市の舞浜リゾートキャブが、集客を目的に10台導入しました。東京ディズニーリゾート周辺を中心に運行され、その個性的な外観は利用客から好評を得ましたが、タクシーとしての過酷な使用を想定して設計されていなかったためか、耐久性に課題があり故障が頻繁に発生しました。このため、2007年までに全ての車両が運用を終え、現在は他の車種に統一されています。首都圏の個人タクシーや岡山県の平和タクシーなど、少数の導入例も確認されています。

車名の由来

「PT」という車名の由来については、いくつかの説があります。クライスラーの公式発表では「Personal Transportation」（パーソナル・トランスポーテーション、個人的な移動手段）の略とされています。しかし、開発時に使用されたクライスラー・PTプラットフォームや、「Platform Tall」（プラットフォームの高い車）の略、あるいは開発コードネームの「PT」に由来するという見方もあります。

PTクルーザーは、その大胆なデザインと実用性の両立を目指した点が評価される一方、取り回しや一部の操作性、耐久性など、いくつかの課題も指摘されたモデルでした。しかし、その唯一無二のスタイルは、今なお多くのファンに記憶されています。

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