クラマトルスク

クラマトルスクは、ウクライナ東部に位置するドネツィク州の主要都市です。ウクライナ語ではКрамато́рськと表記されます。ドネツ川の支流であるカジョンヌイトレツ川の流域北部に広がっており、ウクライナ国内でも有数の重工業の中心地として、また宝飾品産業の集積地としても知られています。ドネツィク州の行政機能が暫定的に置かれている都市でもあります。

地理的には、かつてのスラヴャンスク地区とクラマトルシク地区の境に位置しており、周辺を含めた都市圏としては50万人を超える人口を擁する、ドネツィク州北部の主要な人口集中地帯の中心を担っていました。2020年7月に行われたウクライナ最高議会による地方分権化を目的とした行政区画改革では、旧来の地区が再編され、クラマトルスクは新たに設置されたクラマトルシク地区（ラヨン）の中心都市として定められました。さらに、ラヨン内の下位行政単位であるフロマーダ（広域自治体）の中心地としての役割も担うことになりました。

この都市の歴史には、第二次世界大戦の終結後に設けられた第217収容地区に関連する側面があります。シベリアに抑留された日本人捕虜の一部が遠隔地からこの地に移送され、厳しい条件下で強制労働に従事させられた歴史があります。また、2014年に勃発したウクライナ東部紛争では、「クラマトルシクの戦い」と呼ばれる激しい衝突の舞台となりました。この紛争の影響を受け、同年10月13日からは、本来ドネツィクに置かれていたドネツィク州の行政機能がこの都市に移され、事実上の州都としての役割を担うことになりました。

2022年2月に始まったロシアによる全面侵攻以降、クラマトルスクは度重なる攻撃にさらされており、市民生活に甚大な影響が出ています。特に痛ましい出来事として記憶されているのは、同年4月8日に発生したクラマトルスク駅へのミサイル攻撃です。多くの市民が安全な場所への避難を図るため駅に集まっていた最中にミサイルが着弾し、50人を超える多数の死傷者を出しました。同年7月29日にも市内の住宅地がミサイル攻撃を受け、危険が続くとして翌7月30日にはウクライナ政府当局が、市内に留まる住民に対し退避を強く呼びかける事態となりました。

2023年に入ってもロシア軍による砲撃は止まず、同年1月上旬には郊外のスケート施設がミサイル攻撃で破壊されたほか、20軒以上の民家が損傷しました。同年1月には、ロシア側がクラマトルスクの学生寮をミサイル攻撃し、600人以上のウクライナ兵を殺害したと一方的に主張しました。しかし、ウクライナ側はこの主張を虚偽のプロパガンダであるとして強く否定し、実際に現場を訪れたジャーナリストらが、学生寮が損壊しておらず、ロシア側の発表が事実と異なることを確認しています。さらに同年6月28日には、市内のレストランがミサイル攻撃を受け、11人が死亡するという悲劇が発生しました。この攻撃に関連し、ウクライナ当局はロシア側に攻撃対象に関する情報を提供したとされる地元住民の男性を逮捕し、反逆罪の容疑で訴追する方針を明らかにしました。

人口に関しては、2017年1月1日時点の統計では190,648人が居住していました。2001年のウクライナ国勢調査によれば、住民の言語構成はロシア語話者が67.9%と多数を占め、次いでウクライナ語話者が31.1%となっており、その他にアルメニア語、ベラルーシ語、ロマ語などの話者がわずかに見られました。

交通の要衝としては、クラマトルシク駅が主要な役割を果たしており、ウクライナ国内の各都市と鉄道で結ばれています。かつては1937年から市電が運行されていましたが、2017年8月1日に廃止され、現在は主にバスとトロリーバスが市民の市内移動を支えています。

この都市は、歴史的に産業の中心地として発展してきましたが、近年は特に東部紛争およびロシアによる全面侵攻の最前線の一つとなり、厳しい状況に置かれています。歴史的・文化的な建造物も存在しますが、度重なる攻撃によりその保全も懸念されています。

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