クラリッサ・ストロッツィの肖像

『クラリッサ・ストロッツィの肖像』は、イタリアルネサンスの巨匠、ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1542年に制作した油彩の肖像画です。フィレンツェの裕福な商人、ロベルト・ストロッツィの娘クラリッサをモデルとしており、彼女の2歳の姿を捉えています。この作品は、ティツィアーノが手がけた数少ない子供の肖像画であり、同時期のブロンズィーノによるメディチ家の子供たちの肖像画とともに、初期の子供の肖像画の代表作として知られています。

作品の特徴

この絵画は、16世紀半ばの子供の肖像画の典型とは異なり、クラリッサを全身像で描いています。豪華な室内装飾、窓の外の風景、古典的なレリーフ彫刻、そして愛らしいラップ・ドッグが、この肖像画に「公式性」を与えています。その芸術的特徴は、バロック期の子供の描写に大きな影響を与え、18世紀にはエングレーヴィングも制作されました。現在、作品はベルリンの絵画館に所蔵されています。

モデル、クラリッサ・ストロッツィ

クラリッサ・ストロッツィは、1540年にフィレンツェで生まれ、1581年にローマで亡くなりました。父はロベルト・ストロッツィ、母はマッダレーナ・デ・メディチです。ストロッツィ家はフィレンツェで最も影響力のある一族の一つでした。父ロベルトは政治的な理由でヴェネツィアに亡命しており、クラリッサが生まれたのはこの時期です。肖像画が描かれた時、クラリッサは2歳でした。その後、家族はヴェネツィアを離れ、ローマ、フィレンツェへと移り住みました。クラリッサは1557年にクリストファノ・サヴェッリと結婚し、ローマで生涯を終えました。

絵画の詳細

絵画では、長いシルクのドレスをまとい、石製のテーブルのそばに立つ幼いクラリッサが描かれています。彼女は高価な宝飾品を身につけ、首には真珠と宝石のネックレス、手首には真珠のブレスレットをしています。ガードルには金の鎖が取り付けられ、ポマンダーと思われる球体が吊り下げられています。テーブルの上にはラップ・ドッグが座っており、クラリッサは犬の背中に手を回し抱き寄せています。また、彼女は半分に割ったプレッツェルを持ち、犬に食べさせようとしています。クラリッサの視線は画面左に向けられており、何かに気を取られている様子が描かれています。画面左の暗い壁には銘板があり、彼女の年齢（2歳）と制作年（1542年）がラテン語で記されています。画面右には大きな窓があり、外の風景が広がっています。森の丘を川が流れ、水上では2羽の白鳥が見つめ合っています。テーブルからは赤いマントが滑り落ち、テーブルを飾るレリーフ彫刻やティツィアーノの署名が露わになっています。

窓の外の青い空は、構図上の必要性から後にティツィアーノが追加したものです。クラリッサの肌と白いドレスが最も明るく、窓の外の青空、緑の森、そして赤いマントが、画面中央のクラリッサに対して色彩のアクセントとなっています。左側は暗く、右下のレリーフ彫刻とのバランスを取るため、左上に銘板が対角線に配置されています。

肖像画の公式性

この肖像画は、16世紀半ばに形成された「公式の肖像画」の規範に沿って制作されています。少女は成熟した女性の肖像画のように立像で描かれ、豪華な室内装飾は彼女が上流階級に属していることを示しています。窓の外の風景は、彼女の公的役割を示唆しています。しかし、2歳の少女に独立した業績がないため、鑑賞者は認知的不協和を経験する可能性があります。美術研究者のルバ・フリードマンは、ティツィアーノが寓意的な要素を公式の肖像画に取り入れたと指摘しています。白いドレスとつがいの白鳥は少女の純粋さを象徴し、周囲の森は危険な世界を象徴していると考えられます。

古代美術に基づいた大理石のレリーフも公式の肖像画の要素です。ここでは、クラリッサのイメージに合った遊ぶケルビム（プットー）が描かれています。ティツィアーノは、このレリーフを古典的な場面のコピーではなく、独自の解釈で描きました。さらに、右側のプットーにはクラリッサの横顔の特徴が見られると推測されており、ティツィアーノが初期の作品で用いた技法です。これは、クラリッサが古典的な教育を受け、ルネサンスで尊敬されている古代文化の継承者であることを示唆しています。

プロポーション

ティツィアーノは、子供の頭身が大人の頭身とは異なることを理解した上で、クラリッサを子供の頭身で描きました。彼女の頭部は身長の4分の1であり、これは大人の9分の1とは異なります。また、キャンバスのサイズは3歳の子供の身長が最大身長の約半分であるという古代ギリシアの考えに対応しています。クラリッサの顔と腕の丸みも、子供特有のものです。研究者のジョヴァンニ・バティスタ・カヴァルカゼルやジョゼフ・アーチャー・クロウは、この作品が子供をありのままに描く方向性を生み出したと評価しています。後のバロック期の画家、ルーベンスやヴァン・ダイクも、子供を描く際にティツィアーノの影響を受けました。

小型犬

ティツィアーノは多くの作品で小型犬を描いていますが、ここでは異なる意味を持っています。クラリッサの肖像画では、小型犬が少女の自然への近さを示し、白鳥のつがいと共に、純粋さを象徴しています。小型犬は横にならず、眠ってもおらず、テーブルの上に装飾的に座っています。それは、贅沢な場面に軽やかさを与えるとともに、その注意深い視線で少女を潜在的な脅威から守っているかのような感覚を与えます。

来歴

ティツィアーノの友人である作家のピエトロ・アレティーノは、1542年にこの肖像画の美しさを賞賛しました。クラリッサの死後、肖像画は一族のローマの宮殿に残されました。17世紀には展覧会で展示され、19世紀初頭にはフィレンツェのパラッツォ・ストロッツィに移されました。1878年に、ヴィルヘルム・フォン・ボーデによってベルリン美術館のために購入されました。

影響

ピエトロ・アレティーノは、この肖像画をティツィアーノの最高傑作の一つと見なしました。17世紀にはロレンツォ・マガロッティ伯爵の求めで複製が制作されました。1770年には、イタリアの版画家ドメニコ・クネゴがティツィアーノの絵画を基にしたエングレービングを制作しました。このエングレービングは、スコットランドの画家、ゲイヴィン・ハミルトンや美術評論家ジョン・ラスキンも自身の著書に用いています。1953年には、ドイツのザールラント州で、この肖像画をイメージした切手が発行されました。

この肖像画は、ルネサンス期の肖像画の傑作としてだけでなく、子供の肖像画の歴史においても重要な位置を占めています。

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