クリスティアン・ヴィルト

クリスティアン・ヴィルト：ナチス親衛隊将校と絶滅収容所

クリスティアン・ヴィルト（Christian Wirth, 1885年11月24日 - 1944年5月26日）は、ナチス・ドイツの親衛隊（SS）将校で、最終階級は親衛隊少佐（SS-Sturmbannführer）でした。彼は、第二次世界大戦中、ラインハルト作戦に基づきポーランドに設置されたユダヤ人三大絶滅収容所の総監を務め、ホロコーストにおいて重要な役割を果たした人物です。

生い立ちと初期のキャリア

ヴュルテンベルクのオーバーベルツハイム出身のヴィルトは、帝政ドイツ時代に警察官としてキャリアをスタートさせました。第一次世界大戦では西部戦線に出征し、戦後はシュトゥットガルトで再び警察官となりました。この頃から、彼は残忍かつ強引な捜査を行うことで知られていました。

1931年、ヴィルトは国家社会主義ドイツ労働者党（ナチス党）に入党（党員番号420.383）。1933年には突撃隊（SA）に入隊し、1937年にはラインハルト・ハイドリヒ指揮下のSDに配属されました。1939年には親衛隊（SS）に入隊（隊員番号345,464）し、刑事警察（クリポ）に配属され、シュトゥットガルトの刑事警察長官に就任しました。

T4作戦への関与

その後、ヴィルトはグラーフェネックやブランデンブルクへ派遣され、ユダヤ人や障害者など「生きるに値しない命」を安楽死させる計画（T4作戦）に関与しました。彼はヴィクトール・ブラックの技術面における片腕として、この計画の実行に大きく貢献しました。

ラインハルト作戦と絶滅収容所

「ラインハルト作戦」（ポーランド・ユダヤ人の移送・絶滅計画）が開始されると、ヴィルトはポーランド・ルブリン地区の親衛隊及び警察指導者オディロ・グロボクニクによって、実行者の一人に任命されました。1941年12月、ヴィルトは完成したばかりのベウジェツ強制収容所の所長に任命され、1942年3月にはソビボル強制収容所建設工事の監督も務めました。1942年8月には、ベウジェツ、ソビボル、トレブリンカの三大絶滅収容所の総監に就任し、彼の指揮下で大量のユダヤ人やロマがガス殺されました。

アウシュヴィッツ＝ビルケナウ強制収容所所長ルドルフ・フェルディナント・ヘスとはガス殺の競争関係にあったと言われ、ヴィルトはヘスを「自分の無能な生徒」と評していたとされています。ヴィルトはサディストであり、囚人だけでなく部下の看守に対しても鞭で殴りつけることを好みました。

最期

1943年、上司のグロボクニクがイタリアのトリエステへパルチザン狩りの任務に送られると、ヴィルトも同行しました。しかし、1944年5月、リエカにおいてクロアチア人パルチザンによって殺害されました。

まとめ

クリスティアン・ヴィルトは、ナチス政権下でユダヤ人虐殺に関与した主要な人物の一人であり、彼の残虐な行為は多くの犠牲者を生みました。彼の生涯は、ホロコーストという悲劇を理解する上で重要な事例の一つです。

参考資料

栗原優著『ナチズムとユダヤ人絶滅政策 ホロコーストの起源と実態』、1997年、ミネルヴァ書房、ISBN 978-4623027019
ラウル・ヒルバーグ著、望田幸男・原田一美・井上茂子訳、『ヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅 下』（1997年、柏書房）ISBN 978-4760115174
Charles Hamilton『LEADERS ＆ PERSONALITIES OF THE THIRD REICH VOLUME2』

関連人物

クルト・ゲルシュタイン（ヴィルトの部下として共に囚人のガス室処理に携わった）

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