クリストバル・トリエンテ

クリストバル・トリエンテ：ニグロリーグの英雄

クリストバル・トリエンテ (Cristóbal Torriente, 1893年11月16日 - 1938年4月11日) は、キューバが生んだ20世紀前半を代表する偉大な野球選手の一人です。キューバ・シエンフエーゴス出身の彼は、類まれな打撃技術と強肩を武器に、ニグロリーグで輝かしいキャリアを築きました。

トリエンテの野球人生は、1912年にキューバ国内リーグのレオネス・デル・ハバナで始まりました。その後、アメリカ合衆国のニグロリーグへと活躍の場を移し、キューバン・スターズ (ウェスト) に所属。投手としても15勝5敗という好成績を残したほか、左利きでありながら二塁手や三塁手もこなすなど、その高い適応能力を見せつけました。

革命前のキューバリーグにおいて、トリエンテは驚異的な打率.352を記録し、リーグ最高の打者として君臨しました。1920年には、ニューヨーク・ジャイアンツがキューバを訪れ、親善試合が行われました。この試合で、トリエンテはベーブ・ルースから2本のホームランと1本の二塁打を放つという偉業を達成、その名を世界に知らしめました。

ニグロリーグでは、1918年から1925年にかけてシカゴ・アメリカン・ジャイアンツの中堅手として活躍しました。1920年にニグロナショナルリーグが創設されると、チームのリーグ3連覇（1920年から1922年）に大きく貢献。1920年と1923年には首位打者のタイトルを獲得するなど、リーグを代表する打者として君臨しました。

1926年には、愛用のダイヤの指輪を巡るオーナーとのトラブルにより、カンザスシティ・モナークスへ移籍。1932年にクリーブランド・カブスでプレーした後、現役を引退しました。晩年はアルコール依存症に苦しみ、1938年4月11日、ニューヨークで結核のため44歳でこの世を去りました。しかし、その功績は決して忘れられることはありません。死後翌年の1939年にはキューバ野球殿堂入りを果たし、2006年にはニグロリーグ特別委員会による選考でアメリカ野球殿堂入りを果たしました。

トリエンテの選手としての特徴は、その広い守備範囲と正確無比な送球にあると評されています。強肩は当時から高く評価されており、後のメジャーリーグを代表する選手であるロベルト・クレメンテと比較されるほどでした。マーティン・ディーゴ、ホセ・メンデスと共に、20世紀前半のキューバを代表する黒人選手として記憶されています。

打撃においては、バッドボール・ヒッター（悪い球にも対応できる打者）であり、同時にプルヒッター（右方向への打球を多く打つ打者）として知られていました。その強烈な打球は、400フィートと書かれたセンターフェンスに何度も直撃。カンザスシティ・ミュニシパル・スタジアムでは、センター後方にあった球場の時計を打球で壊してしまったという逸話も残っています。

ニグロリーグでの通算成績は、打率.335、664試合出場、2311打数774安打、138二塁打、47三塁打、53本塁打、69盗塁です。キューバリーグでの成績は、打率.352（リーグ1位）、1402打数494安打、62二塁打、39三塁打、18本塁打、271得点、112盗塁という素晴らしいものです。メジャーリーグとの交流試合では、打率.313を記録しました。

トリエンテの生涯は、困難と成功、そして才能と苦悩が入り混じった、まさに波乱万丈なものでした。しかし、彼の残した記録と記憶は、今もなお人々の心に深く刻まれています。ニグロリーグという歴史の舞台で活躍した彼の偉業は、未来永劫語り継がれるべきものです。

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