クリストファー・シンプソン

クリストファー・シンプソン（Christopher Simpson）は、1605年頃に生まれ、1669年に亡くなったイングランドの音楽家です。彼は特にヴィオラ・ダ・ガンバの卓越した演奏家であり、そのための作曲家、そして後世に影響を与えた音楽理論家として知られています。彼の生涯と作品は、17世紀イングランドの複雑な社会情勢と音楽文化を反映しています。

生涯

シンプソンの正確な生年月日は定かではありませんが、1602年から1606年の間に、おそらくイングランド北部、ノース・ヨークシャーのイーグトン近郊で生まれたと考えられています。彼の父もクリストファーという名前で、なめし革職人として生計を立てていましたが、地元の裕福なカトリック信徒から庇護を受け、劇場支配人も務めていたと伝えられています。当時のイングランドではカトリック信徒がしばしば弾圧を受けており、父は目立たぬよう平凡な職業を名乗っていたのかもしれません。シンプソン自身がヨーロッパ大陸でイエズス会士として教育を受け、1629年に司祭に叙階されたという仮説も提唱されていますが、彼の没年（1669年）が、同時期に活動した別のイエズス会士シンプソンの記録（1674年まで存命）と一致しないため、この説には疑問符がついています。

イングランド国内が混乱した清教徒革命（イングランド内戦）において、シンプソンは王党派（騎士党）の一員として従軍しました。1642年には、後の初代ニューカッスル公となるウィリアム・キャヴェンディッシュの軍に補給将校として加わっています。内戦が激化し、ヨークが議会派に包囲された後、彼はリンカンシャー州スケンプトンに所領を持つロバート・ボルズ卿によって匿われました。この縁で、シンプソンはボルズ卿の邸宅に住み込みの音楽家として雇われ、さらにボルズ卿の息子ジョンに音楽を教える師範としても仕えることになります。

シンプソンは生涯にわたり、リンカンシャーおよびロンドンにあったボルズ家の邸宅で音楽家として雇用され続けました。1669年 5月5日に作成された彼の遺書からは、同年7月29日までロンドンに滞在していたことが確認されており、おそらくロンドンのホルボーンにあるジョン・ボルズ卿の邸宅でその生涯を閉じたと考えられています。

主要な作品と理論

クリストファー・シンプソンは、同時代の音楽出版者ジョン・プレイフォードの著作に一部寄稿していますが、彼の名声を確立したのは、ヴィオラ・ダ・ガンバ演奏に関する自身の指南書『The Division Violist』です。この書は1659年に初めて刊行され、大きな成功を収めました。本書は、ヴィオラ・ダ・ガンバ本体とその奏法を解説する第一部、協和音の使用法やディスカント（即興的な装飾）の要点を扱う第二部、そしてグラウンド（定旋律）に基づいたディヴィジョン（変奏）の手順を示す第三部という、三部構成で書かれています。1665年に出版された第二版では、英語とラテン語が対訳形式で記されており、国際的な読者を意識していたことがうかがえます。この著作はシンプソンの死後も版を重ね、特に20世紀になって古楽とヴィオラ・ダ・ガンバへの関心が高まるにつれて、当時の正統的な演奏技法を再発見しようとする研究者や演奏家にとって極めて重要な資料となりました。

『The Division Violist』の初版には、シンプソンの肖像画が添えられています。当初は帽子をかぶった姿で描かれていましたが、後の版で修正され、現在よく知られている肖像では無帽の姿となっています。この肖像画は、当時のヴァイオル演奏における興味深い技法の一端も示しています。例えば、弓の持ち方がヴァイオリン族とは異なり、右手の中指と人差し指で弓の毛に触れることで、演奏中に弓の張力を微妙に調整できるような持ち方が描かれています。

シンプソンはまた、作曲に関する理論書も著しています。1665年には、門弟の一人であるサー・ジョン・セントバーブに献呈された簡易な手引書『音楽の実践原理（The Principles of Practical Musick）』を出版しました。この著作は、1667年版のより包括的な理論書『音楽実践概論（A Compendium of Practical Musick）』へと発展しました。

シンプソンの作曲作品は、自身の理論書に例として含まれているものを除くと、生前に出版されたものは稀です。多くの作品は写本の形で伝えられています。特に知られているのは、《12ヵ月（The Monthes）》または《四季（The Seasons）》と題された一連のファンタジア集で、これは2本のトレブル・ヴァイオル、2本のバス・ヴァイオル、そして通奏低音楽器のために書かれています。彼の現存する器楽曲は全てヴァイオル合奏曲か、あるいはヴァイオル独奏曲であり、彼がいかにこの楽器に深く傾倒していたかがわかります。シンプソン自身、ヴァイオルについて「優秀な演奏家の手にかかれば、（疑いなく）あらゆる楽器のうちで最高の存在に数えられよう。グラウンドによる即興的な演奏は、ヴァイオル演奏の究極の完成である」と述べています。

クリストファー・シンプソンは、ヴィオラ・ダ・ガンバの黄金期における重要な人物であり、その演奏技法や音楽理論に関する著作は、17世紀の音楽実践を知る上で欠かせない史料です。彼の作品は現代においても再評価され、演奏されています。

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