クリプトスポリジウム

クリプトスポリジウムとは

クリプトスポリジウムは、アピコンプレックス門に属する寄生性の原虫です。様々な脊椎動物の消化管に寄生し、クリプトスポリジウム症という感染症を引き起こすことがあります。特に免疫力の低下した人にとっては重篤な症状を引き起こす可能性があり、注意が必要です。クリプトスポリジウム・パルバムは、感染症法により特定病原体等に指定されています。

形態

クリプトスポリジウムは、環境中ではオーシストという耐久性の高い状態で存在します。オーシストの大きさは種によって異なり、3μmから8μm程度で、類円形または楕円形をしています。厚い壁に覆われており、厳しい環境下でも生存できます。クリプトスポリジウムはコクシジウム類に分類されますが、通常のコクシジウム類とは異なり、オーシストの中にスポロシストがなく、直接4個のスポロゾイトが存在します。

宿主

クリプトスポリジウムは、人を含む幅広い脊椎動物に感染します。魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類など、様々な動物が宿主となります。特に爬虫類はクリプトスポリジウムの影響を受けやすく、慢性的な症状を示すことがあります。哺乳類では、不顕性感染からクリプトスポリジウム症を発症する場合まで、様々な症状が見られます。

生活環

クリプトスポリジウムは、一つの宿主で生活環を完了させる一宿主性の原虫です。オーシストは糞便とともに排出された時点で感染力を持っています。経口摂取されたオーシストは、小腸で脱嚢し、スポロゾイトを放出します。スポロゾイトは小腸の粘膜細胞に侵入し、無性生殖（メロゴニー）を行います。メロゴニーを繰り返した後、有性生殖（ガメトゴニー）を行い、オーシストを形成します。一部のオーシストは体内でスポロゾイトを放出し、再びメロゴニーに移行します。

歴史

クリプトスポリジウムは、1907年にティザーによってネズミから発見されました。しかし、長らく他のコクシジウム類と混同されてきました。1970年代になってヒトへの病原性が明らかになり、1983年に水道を介した集団感染が発生したことから、水系感染症の病原体として重要視されるようになりました。

分類

クリプトスポリジウム属は、アピコンプレックス門に属し、伝統的にコクシジウム類とされてきました。しかし、分子系統解析の結果から、グレガリナ類に近縁である可能性が示唆されています。クリプトスポリジウムの種分類は、形態の違いが乏しいことや、宿主特異性に関する誤解などから、混乱が見られました。現在では、分子系統解析などにより、分類の整理が進められています。

クリプトスポリジウムは、胃に感染する大型種と、腸に感染する小型種に大別できます。主な種としては、以下のものがあります。

大型種:
C. muris (ネズミクリプトスポリジウム)
C. andersoni (アンダーソンクリプトスポリジウム)
C. galli
C. serpentis
C. fragile
C. molnari
小型種:
C. parvum (小形クリプトスポリジウム)
C. hominis (ヒトクリプトスポリジウム)
C. wrairi
C. felis (猫クリプトスポリジウム)
C. canis (犬クリプトスポリジウム)
C. suis (豚クリプトスポリジウム)
C. bovis (牛クリプトスポリジウム)
C. ryanae
C. fayeri
C. macropodum
C. meleagridis (シチメンチョウクリプトスポリジウム)
C. baileyi
C. varanii

影響

クリプトスポリジウムは、汚染された水や食品を介して感染します。感染すると、下痢、腹痛、吐き気などの症状が現れます。免疫力の低下した人では、重症化するリスクが高まります。クリプトスポリジウムは、水道水に混入して集団感染を引き起こすこともあります。塩素消毒ではオーシストを不活化できないため、注意が必要です。

対策

クリプトスポリジウム対策としては、以下のものが挙げられます。

浄水場における対策:
水源の変更
凝集処理の適切化
ろ過池の逆洗流量の調整
膜ろ過処理の導入
オゾン処理の追加
紫外線処理の追加
使用者における対策:
飲用水の煮沸
その他:
水源地周辺の家畜の屎尿対策
* 大腸菌及び嫌気性芽胞菌の検査

クリプトスポリジウム症は、適切な対策を講じることで予防できます。特に、免疫力の低下した人は、注意が必要です。

もう一度検索