クルアーン主義

クルアーン主義の概念と歴史

クルアーン主義、あるいは「コーラン主義」とは、アラビア語で「クルアーンの徒」を意味するQur'āniyyunを基盤とする思想で、イスラム教における法と世俗的な行動規範がクルアーンのみに依存すべきだとする立場です。この考え方は、ハディース（預言者ムハンマドの言行録）の宗教的権威を否定する批判的なスタンスに基づいています。クルアーン主義者は、クルアーンによる神の教えが全てを明示しており、ハディースを通じて得られる情報に依拠することなく、精確な理解が可能であると主張します。

クルアーン主義者の見解

クルアーン主義者はハディースを受け入れないため、イスラムの法学や実践においても、ハディースの権威を認めません。宗派ごとに異なるハディース集が存在しますが、主流派イスラム教徒と異なり、クルアーン主義者はどのハディース集も聖典として持たず、宗教的信条や法源をクルアーンに限定します。彼らのスタンスは、ユダヤ教のカライ派運動やプロテスタントの「聖書のみ」の思想とも関連性が見られる点が特徴的です。

クルアーン主義者は、自らを単に「ムスリム」と呼ぶことを好み、多くの場合、外部からの「改革派」や「クルアーニスト」とのラベリングを拒否します。クルアーンを唯一の法源とする信条は、クルアーンの明示された章句に基づき、特定の信頼性のある情報源の使用を排除するものです。

解釈方法の違い

クルアーン主義者は、クルアーンの内容を解釈するために、他の情報源に頼らず、現代的な視点からそのままテキストにアプローチします。この方法は、スンニ派やシーア派が用いる、ハディースに基づく注釈とは対照的です。また、彼らはクルアーン自体を用いての解釈の原則を採用し、ハディースの使用を排除した上で、クルアーンを理解しようとします。この基本的な解釈の違いは、神学や法学の問題において顕著な対立を生む要因となっています。

クルアーン主義の歴史

クルアーン主義の概念は、初期イスラム期にさかのぼります。当時、ムハンマドはハディースの記録行為を禁止していたとされ、彼の教友の一人ウマルも、カリフとして統治期間中に同様の方針を取ったことから、初期のイスラム教徒の中でもクルアーンの重要性が強調されていました。しかし、その後、ハディースが宗教の中に取り入れられる過程が進み、ウマイヤ朝時代からはハディースの記録が公式化されていきます。

19世紀には南アジアで、ハディース重視に対抗する形でアーレ・クルアーン運動が起こりました。この運動は、クルアーンを根拠とし、そのみに従うことを主な主張としています。さらに20世紀に入ると、エジプトやイランにおいてもクルアーン主義の復興が見られ、様々な改革派の学者たちがクルアーンのみに立脚した思想を展開しました。特にムハンマド・アブドゥフやムハンマド・タウフィーク・シドキーなどの思想家は、ハディースへの依存を批判し、クルアーン重視の姿勢を貫きました。

現代の展開

21世紀に入り、インターネットの普及が影響して、クルアーン主義の思想が世界のイスラム圏で広まりつつあります。しかし、これに対する反発も多く、特にスンナ派の影響力が強い国々では、クルアーン主義者が弾圧される事例も多く見られます。例えば、サウジアラビアやエジプトでは、クルアーン主義に基づく思想を持つ人々が逮捕されるケースが多発しており、抵抗する学者たちが抑圧の対象にされています。

一方で、南アフリカやトルコ、ロシアでは、クルアーン主義者たちが新たな運動を通じてクルアーンの思想を展開し、男女平等や宗教間交流を目指す動きも見られます。

代表的運動や著名な実践者

クルアーン主義に関わる多数の運動が存在し、例えばインドの「Ahle Quran」やカザフスタンの「Izgi Amal」などがあります。また、様々な著名なクルアーン主義者もおり、彼らはクルアーンの解釈や実践の中でその思想を具体化しています。彼らは、伝統的なハディース重視の立場とは異なる視点から、イスラム教の理解を深める試みに取り組んでいます。

このように、クルアーン主義は稀有な観点からイスラム教を捉え直す運動として、今日の社会においてもさまざまな議論を喚起し続けています。

もう一度検索