クルム (ブルガリア皇帝)

クルムは、第一次ブルガリア帝国のハーンとして、803年から814年まで在位しました。先代ハーンであるカルダムの息子として生まれ、その治世はブルガリアの歴史において重要な転換期となりました。

クルムがハーンに即位した当時、周辺地域ではアヴァール人と東ローマ帝国の勢力が衰退し始めていました。クルムはこれらの情勢を的確に捉え、積極的な領土拡大政策を推し進めます。

まず、クルムは805年にアヴァール人の支配領域に侵攻し、トランシルヴァニアからパンノニア東部に至る広大な地域を勢力下に置きました。これにより、ブルガリアの領土は大きく拡大し、その勢力基盤を強固なものとしました。

次に、クルムは南に目を向け、東ローマ帝国との衝突を始めます。809年には、重要な拠点であったセルディカ（現在のソフィア）を占領し、東ローマ帝国に大きな衝撃を与えました。このセルディカの占領は、東ローマ皇帝ニケフォロス1世の侵攻を招くことになります。

811年、ニケフォロス1世はブルガリアに侵攻を開始し、ブルガリアの首都プリスカを占領し、徹底的に破壊しました。しかし、クルムはプリスカの戦いにおいて東ローマ軍を撃破し、ニケフォロス1世を討ち取るという歴史的な勝利を収めました。この勝利により、クルムの名声は高まり、ブルガリアの軍事力は周辺諸国に知れ渡ることとなりました。

その後も、クルムはトラキア地方への侵攻を繰り返し、813年にはヴェルシニキアの戦いで東ローマ軍を再び破り、トラキアの大部分を征服しました。勢いに乗ったクルムは、ついに東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルを包囲しました。

しかし、コンスタンティノープルは堅固な城壁に守られており、クルムは決定的な攻略手段を持っていませんでした。そこでクルムは、東ローマ皇帝レオーン5世と和平交渉を開始しました。しかし、交渉の場でレオーン5世はクルムを暗殺しようと試み、失敗に終わります。この裏切り行為に激怒したクルムは、トラキアを徹底的に略奪し、アドリアノープル（現在のエディルネ）を占領しました。

その後、クルムは一時的にブルガリアに帰国し、冬の間を過ごしました。しかし、その冬の終わりには再び東ローマ帝国への侵攻を開始し、アルカディオポリスを占領しました。クルムは再びコンスタンティノープルを攻撃しようとしましたが、814年4月、突然の死を迎えました。

クルムの死後、息子のオムルタグがハーンを継ぎ、東ローマ帝国との間で和平条約が結ばれました。クルムの治世は、ブルガリア帝国の拡大期を象徴するものであり、その軍事的な手腕は歴史に名を残しています。

関連項目
* クルモヴグラト

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