クレマン・マロ

クレマン・マロ：ルネサンス期のフランス詩人

クレマン・マロ（Clément Marot, 1496年/1497年 - 1544年）は、ルネサンス時代のフランスを代表する詩人です。その生涯は、宮廷との密接な関わりと、宗教改革の時代における複雑な立場によって特徴づけられます。

生涯

マロは、1496年または1497年の冬に、フランスのカオールで生まれました。父ジャン・マロも詩人であり、クレマンは父から詩作の指導を受けました。1506年、父がアンヌ・ド・ブルターニュ王妃に仕えることになったため、一家はパリに移り住み、クレマンはパリ大学で法学を学びました。

当時の詩壇は、Rhétoriqueursと呼ばれる詩人たちが支配しており、彼らは大げさな表現と15世紀の寓意的な様式を好んでいました。マロも初期には彼らの影響を受けましたが、次第に独自のスタイルを確立していきます。1512年にはウェルギリウスの『牧歌』を翻訳するなど、古典にも親しみました。

法学をabandonし、ニコラ・ド・ヌフヴィルの従者となったマロは、宮廷に出入りするようになり、フランソワ1世に才能を認められました。1514年には、フランソワ1世に『ミノスの審判』を献呈し、その後、クロード・ド・フランス王妃の「facteur de la reine」（王妃の詩人）に任じられました。また、フランソワ1世の姉であるマルグリット・ダランソン（後のマルグリット・ド・ナヴァル）の庇護も受けました。マルグリットの宮廷では、人文主義的な思想に触れ、詩のスタイルに大きな影響を受けました。

1524年、マロはフランソワ1世のイタリア遠征に同行しましたが、パヴィアの戦いで王が捕虜となった際、自身も捕らえられた可能性があります。1526年には、異端の罪で逮捕され、シャルトルに投獄されましたが、マルグリットの尽力により釈放されました。この投獄体験は、詩『地獄』として結実しました。

1532年、最初の作品集『クレマンの若き日』を発表し、大きな成功を収めました。しかし、1534年の檄文事件に関与したとして訴えられ、ネラック、ナバラを経て、ルネ・ド・フランスの元に逃れました。フェラーラでは、ブラゾン（対象を賛美または非難する詩）など、新たな詩形を試みました。

フランソワ1世の恩赦を得てフランスに帰国したマロは、1541年にフランス語の韻文による『詩篇』翻訳を出版しました。これは大流行し、宮廷や市中で広く歌われました。しかし、ソルボンヌから翻訳の誤りを指摘され、1542年にジュネーヴに逃亡しました。カルヴァンの支配するジュネーヴでの生活は長くは続かず、1544年秋、トリノで客死しました。

作品と影響

マロの詩は、機知に富んだ表現と洗練された形式によって特徴づけられます。彼は、ロンドーやバラードといった伝統的な詩形を使いながらも、新しい感覚を取り入れ、フランス詩の近代化に貢献しました。また、フランス語による『詩篇』翻訳は、宗教改革の推進に大きな役割を果たしました。

マロの作品は、同時代の詩人たちに大きな影響を与え、彼のスタイルは模倣されました。また、モーリス・ラヴェルやジョルジェ・エネスクといった音楽家によって、マロの詩に曲がつけられています。

参考文献

Chisholm, Hugh, ed. (1911). "Marot, Clément". Encyclopædia Britannica (英語). Vol. 17 (11th ed.). Cambridge University Press. pp. 748-749.
ダグラス・ホフスタッター『Le Ton beau de Marot』

外部リンク

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