クレルヴォ交響曲

シベリウスの初期傑作『クレルヴォ交響曲』：悲劇の物語と壮大な音楽

ジャン・シベリウスが1892年に作曲した『クレルヴォ』（作品7）は、フィンランド叙事詩『カレワラ』に基づく交響詩です。通称「クレルヴォ交響曲」と呼ばれるように、5楽章からなる大規模な作品で、交響曲と呼べるほどの構成と内容を持っています。しかし、シベリウス自身は「交響曲」と銘打たず、「独唱者と合唱、管弦楽のための交響詩」と副題を付けており、そのため交響曲全集に収録されないこともあります。

作曲の経緯と背景

シベリウスは1891年、ベルリンでロベルト・カヤヌスの『アイノ交響曲』に触発され、フィンランドを題材とした大規模な管弦楽曲の創作を決意します。ウィーン留学中、彼は『カレワラ』に基づく作品に取り組み始めました。当初はドイツ的な要素を含んだ作品を創作していましたが、それらを破棄し、新たに作曲に着手。指導教授からの酷評にも屈せず、ブルックナーの交響曲第3番などから刺激を受けながら、完成にこぎつけました。ベートーヴェンの交響曲第9番からは、逆に何も得られなかったと語っています。

当初3～4楽章を想定していましたが、最終的には5楽章構成となり、当初50もの候補があった題材は、ゴルトマルクの助言を受けて、『カレワラ』第35章と第36章のクッレルヴォの物語に絞られました。1892年4月28日、ヘルシンキで初演されましたが、その後は断片的演奏が3回行われたのみで、全曲演奏は1958年、シベリウスの死後になって初めて実現しました。最初の全曲録音は1970年、パーヴォ・ベルグルンドによるものです。

クッレルヴォの悲劇的な物語

『カレワラ』におけるクッレルヴォの物語は、復讐と悲劇に満ちたものです。兄弟の争いによって一族を滅ぼされたクッレルヴォは、様々な試練を乗り越えながらも、最終的には自らの手で命を絶つという、悲劇的な運命をたどります。

不幸な出生と奴隷生活: クッレルヴォは、父を殺した叔父ウンタモに育てられ、鍛冶屋に奴隷として売られます。
過失と悲劇: 彼はイルマリネンの妻を殺めてしまいます。
再会と悲恋: 母との再会を果たしますが、生き別れの妹と恋に落ち、その事実を知った妹は自殺します。
復讐と死: ウンタモへの復讐を果たしますが、その後、罪悪感に苦しみ、自害します。

楽曲の構成と特徴

『クレルヴォ交響曲』は、ホ短調を主調とし、全5楽章で構成されています。演奏時間は指揮者によって異なりますが、通常1時間以上かかります。各楽章はクッレルヴォの生涯の各段階を反映しており、管弦楽、独唱、合唱を効果的に使用した、壮大なスケールの作品となっています。

第1楽章「導入部」: 自由なソナタ形式。管弦楽のみ。
第2楽章「クレルヴォの青春」: 自由なロンド形式。管弦楽のみ。
第3楽章「クレルヴォとその妹」: 5拍子。男女の独唱と男声合唱を含む。クッレルヴォと妹の悲恋を描写。
第4楽章「クレルヴォの出征」: スケルツォ。精力的で好戦的な音楽。
* 第5楽章「クレルヴォの死」: 男声合唱を含む。クッレルヴォの死を歌い上げる。

編成

ソプラノ独唱、バリトン独唱、男声合唱、フルート2（ピッコロ1持ち替え）、オーボエ3（イングリッシュホルン1持ち替え）、クラリネット2（バス・クラリネット1持ち替え）、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、トライアングル、シンバル、弦5部という大編成によって演奏されます。

まとめ

『クレルヴォ交響曲』は、シベリウスの初期における最高傑作の一つであり、彼の才能と、フィンランドの叙事詩への深い理解を雄弁に物語る作品です。悲劇的な物語と壮大な音楽が融合した、聴く者を圧倒する力を持つ、必聴の交響詩です。

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