クロセイタカシギ

クロセイタカシギとは

チドリ目セイタカシギ科セイタカシギ属に分類される鳥類、*クロセイタカシギ（学名：Himantopus novaezelandiae）は、その和名が示す通り、全身が黒い羽毛で覆われた大型のシギです。学名の種小名「novaezelandiae」は、『ニュージーランドの』という意味を持ち、この鳥がニュージーランド固有であることを示唆しています。

生息環境と分布

クロセイタカシギはニュージーランドの固有種であり、主に南島に一年を通して生息しています。かつてはニュージーランド各地に広く分布し繁殖していましたが、現在では繁殖が確認されているのは主に南島のワイタキ渓谷周辺など、ごく限られた地域のみとなっています。冬季になると、一部の個体は越冬のために北島へ北上することもあります。

主な生息環境は、河川、沼地、湿原などの水辺です。

形態

成鳥の全長は37〜40センチメートル、体重は約0.2キログラムです。体全体が艶やかな黒い羽毛に覆われています。嘴の基部や喉の部分は灰色の羽毛で覆われることがあります。虹彩は鮮やかな赤色をしており、黒い嘴とともに顔の特徴となっています。長く伸びた後肢は鮮やかなピンク色をしており、特徴的な外見を際立たせています。

幼鳥は、頭部、頸部、そして胸部が白い羽毛に覆われている点で成鳥と異なります。性別による形態差としては、一般的にオスの方がメスよりも後肢が長いとされています。繁殖期には、嘴の基部や喉の色が黒っぽく変化する傾向が見られます。

生態

クロセイタカシギは動物食性の鳥で、水辺や浅瀬で餌を採ります。主に昆虫、甲殻類、軟体動物、ミミズなどを捕食しますが、小さな魚類も食べることがあります。

繁殖はワイタキ渓谷のような渓谷沿いの水辺で行われます。地面に浅い窪みを掘って巣とし、9月から翌年1月にかけて繁殖します。一度に産む卵は3個から6個で、特に4個産むことが多いとされています。卵の抱卵は雌雄が交代で行い、抱卵期間は24日から26日間です。孵化した雛は、およそ41日から55日で飛べるようになり、巣立ちを迎えます。

絶滅の危機と保全活動

クロセイタカシギは、過去数十年の間に生息数が激減し、現在では絶滅の危機に瀕している極めて希少な鳥類です。かつて1950年代には1,000羽以上いたと推定されていますが、1960年代には100羽以下に減少し、1999年にはわずか40羽と推測されるほどに激減しました。

この深刻な状況の主要因は複数あります。

生息環境の破壊: 人間の開発による湿地や河川環境の減少、変化。
外来捕食者による捕食: 人為的に持ち込まれたノネコ、オコジョ、ヨーロッパケナガイタチ、ドブネズミといった動物が、卵や雛、成鳥を捕食している影響が大きい。
植生の変化: 外来植物（ハウチワマメ、ヤナギなど）の侵入による、繁殖に適した環境の質の劣化。
遺伝子汚染: 生息数が減少し、同所的に分布する近縁種のセイタカシギとの間で交雑が生じ、遺伝的多様性の低下や固有の遺伝子の希釈が進んでいること。
在来天敵の増加: 外来種を餌とする在来の天敵の生息数が増加したことも、本種への捕食圧を高める要因として挙げられています。

こうした危機的状況に対し、様々な保全活動が進められています。具体的には、

飼育下での繁殖プログラムの実施
野生の巣から卵を回収し、人工的に孵化させて雛を育てる活動
主要な繁殖地をフェンスで囲い、外敵の侵入を防ぐ措置
繁殖地周辺における外来捕食動物の駆除

などが積極的に行われています。これらの取り組みによって、わずかに残された個体群の維持と増加が目指されています。

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