クロフネサイシン

クロフネサイシンについて

クロフネサイシン（学名: Asarum dimidiatum）は、ウマノスズクサ科の多年草であり、日本に自生する固有種です。この植物は主に紀伊半島の中部や広島県、四国、そして九州に分布しており、山地の林床に生息しています。

特徴

クロフネサイシンは、カンアオイ属の一部であり、ウスバサイシン節に分類されます。全体的にはウスバサイシン（Asarum sieboldii）に似ているものの、サイズはやや小型です。具体的には、雄蕊が6個、花柱が3個と、これらの数が半減しています。

植物の茎の先端には、相対する2枚の葉が付きます。これらの葉は冬になると落葉し、葉柄は長さ約15センチメートルに達し、独特の汚紫色を呈します。葉自体は卵円形から五角形に近く、長さは4-6センチメートルで、先端はとがっています。葉の表面は深い緑色になっており、裏面は淡い色をしており、両面には短毛が生えています。

花の開花は4月から5月に見られ、葉の腋から長さが2-3センチメートルの直立した花柄が出て、そこから横向きに暗紫色の花を咲かせます。この花には花弁がなく、代わりに萼裂片が花弁のような形をしています。萼筒は上下から押しつぶしたような球形を持ち、長さは7-8ミリメートル、直径は約10ミリメートルです。3つの萼裂片は三角状卵形で平坦に開き、先端は内側に屈曲します。萼筒内壁には約18本の縦筋があり、花柱は3個で直立し、先端には短い突起があり2列に分かれています。外側には楕円形の柱頭があります。雄蕊は6個で、短い花糸で子房壁に付着しており、最初は屈曲していますが、葯が裂ける頃には直立します。クロフネサイシンの染色体数は2n=26です。

分布および生育環境

クロフネサイシンは日本独特の種で、紀伊半島の中部や広島県、四国、九州に自生しています。特に山地の林床に生育しており、湿気のある環境を好みます。これらの地域の自然環境が、この植物が育つための最適な条件を提供しています。

名前の由来

和名の「クロフネサイシン」は、花の横部が黒色に近い暗紫色であることに由来し、1936年に前川文夫によって命名されました。長崎に居住していたF.C.Greatrexがこの地で採集した標本を基に、前川はその特徴を説明する論文を発表しました。

種の保全状況

クロフネサイシンは環境省レッドリストにおいて準絶滅危惧（NT）に評価されています。各都道府県での状況は異なり、例えば奈良県では絶滅危惧種とされ、広島県や香川県では絶滅危惧I類（CR+EN）に分類されています。一方で、長崎県では絶滅が確認されており、他の県でも様々な評価がなされています。

利用

この植物はウスバサイシンやオクエゾサイシンと共に、細辛として薬用に利用されることがあります。これらの植物は伝統的な薬草や民間療法に用いられ、特にその根や葉が注目されています。

クロフネサイシンはその独特な外観と生育環境から、生物多様性の重要な一部として、また文化的に重要な植物として注目されています。

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