クロミオス

クロミオス

「クロミオス」（古希: Χρόμιος, Chromios）とは、古代ギリシアの神話や伝説に登場する複数の人物が共有する名前である。同名の人物が数多く存在するため、文脈によって誰を指すのかを区別する必要がある。特に、系譜や活躍によって区別されることの多い主要な人物として、タポスの王プテレラーオスの子、メッセニア地方のピュロス王ネーレウスの子、トロイアーの偉大な王プリアモスの子、そしてアルシノオスの子の四名が挙げられる。これらの人物の他にも、叙事詩や歴史書にその名が見えるクロミオスが複数確認されている。

プテレラーオスの子クロミオス

タポスの王プテレラーオスの子として生まれたクロミオスは、テュラノス、アンティオコス、ケルシダマース、メーストール、エウエーレース、そして姉妹であるコマイトーといった多くの兄弟姉妹を持っていた。彼らプテレラーオスの子らは、祖先であるメーストール（ミュケーナイ王エーレクトリュオーンの父ペルセウスの子）がかつて治めていた土地の相続権を主張し、ミュケーナイの地へと赴いた。当時のミュケーナイ王エーレクトリュオーンに対し、彼らはその土地の返還を要求したが、王はこれを断固として拒否した。

この要求の拒否が引き金となり、両者の間に深刻な対立が生じた。プテレラーオスの息子たちは力ずくで目的を達成しようと、エーレクトリュオーンが所有する豊かな牝牛の群れを奪うことを企てた。牛の強奪を巡って激しい戦闘が勃発し、これは悲惨な結果を招いた。船を守るために待機していた兄弟エウエーレースを除くプテレラーオスの子らは全員がこの戦いで命を落とした。同様に、エーレクトリュオーンの息子たちも、まだ幼かったリキュムニオスただ一人を残して全員が相討ちとなり、この争いは双方に壊滅的な被害をもたらしたのである。

ネーレウスの子クロミオス

ピュロスの王ネーレウスと、ボイオーティア地方オルコメノスの王アムピーオーンの娘クローリスとの間に生まれた息子の一人としても、クロミオスという名が伝えられている。彼は、古代ギリシア最大の英雄の一人であるネストールをはじめ、ペリクリュメノス、ペーローといった有名な兄弟姉妹を持っていた。ホメーロスによって詠われた叙事詩『オデュッセイアー』の中で、ネーレウスの多くの子供たちの一人としてその存在が記されている。ネーレウスの子らはそれぞれ異なる運命をたどったが、クロミオスに関する具体的な神話上のエピソードは、ネストールやペリクリュメノスほど詳細には語られていない。

プリアモスの子クロミオス

トロイアーの偉大な王プリアモスは、多くの妻や妾との間に五十人もの息子をもうけたが、その中の一人にクロミオスがいた。彼は、長きにわたるトロイア戦争においてトロイア側の戦士として戦場に立った。戦争の途上、彼は兄弟の一人であるエケムモーンとともに一台の戦車に乗り込み、ギリシア勢と戦った。しかし、戦場でギリシア軍最強クラスの英雄であるディオメーデースと遭遇してしまう。ディオメーデースの圧倒的な武勇の前に、クロミオスとエケムモーンは有効な抵抗を示すことができず、二人とも同じ戦車の上で討たれてしまった。彼らの死は、トロイア軍にとって若き戦士を失う痛手となった。

アルシノオスの子クロミオス

アルシノオスを父に持つクロミオスも、トロイア戦争の物語に登場する人物である。彼にはエンノモスという名の兄弟がいた。このクロミオスとエンノモス兄弟は、トロイア戦争が勃発して十年目を迎えた頃、アジア側のミューシア地方からトロイアーを救援するために派遣された軍勢を率いて戦場に加わった。彼らはトロイアの同盟軍としてギリシア勢と戦ったが、その後の戦いにおける具体的な功績や運命については、詳細な記述が少ない。

その他のクロミオスたち

上述の主要な人物以外にも、トロイア戦争を題材とした叙事詩や文献には、同名のクロミオスが複数登場する。例えば、ピュロス出身の武将で、老将ネストールと共に戦場を駆けたとされるクロミオス、リュキア人としてトロイア軍に加わり、ギリシア側の策略家オデュッセウスによって討ち取られたクロミオスがいる。また、トロイア人の戦士としてテウクロスによって討たれた者や、同じくトロイア人として戦友アレートスと共闘した者も記録されている。さらには、ギリシア側の人物でありながら、ミューシアの武将エウリュピュロスに討たれたというクロミオスも存在する。これらのクロミオスたちは、それぞれ異なる立場や運命を持ちながらも、歴史や伝説の中でその名が語り継がれている。

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