クロムウェルのアイルランド侵略

クロムウェルのアイルランド征服：血と鉄の11年戦争

17世紀半ば、英国内戦と三王国戦争の渦中、アイルランドはイングランド議会軍による再征服という、未曽有の苦難を経験しました。この征服、通称「クロムウェルのアイルランド侵略」は、オリバー・クロムウェル将軍の指揮下で行われ、アイルランドの歴史に深い傷跡を残しました。1641年のアイルランド反乱以降、アイルランドはアイルランド・カトリック同盟が実質的に支配していましたが、彼らは王党派と同盟を結び、イングランド共和国にとって脅威となりました。この状況が、クロムウェルのアイルランド遠征の直接的な引き金となりました。

侵略の背景：幾重にも絡み合う要因

クロムウェルのアイルランド侵攻は、単一の要因によるものではなく、複数の要因が複雑に絡み合った結果でした。アイルランド・カトリック同盟と王党派の同盟は、イングランド共和国の存続を脅かす重大な事態でした。イングランドへの侵攻、君主制復活という彼らの野望は、新生共和政にとって無視できない脅威でした。

しかし、同盟がなくても、議会派によるアイルランド再征服は避けられなかった可能性があります。彼らはアイルランドをイングランド王国の正当な一部と見なし、1641年の反乱を一時的な逸脱と捉えていました。議会派議員の中には、反乱時に起きたプロテスタント移民に対する残虐行為への報復を望む者も少なくありませんでした。さらに、アイルランドの港が私掠船の拠点となっていたこと、議会派の債権者への土地による補償の必要性、そしてピューリタンであるクロムウェルらのカトリックに対する宗教的敵対心なども、侵略の背景として挙げられます。

侵略の経過：血染めの足跡

1649年8月、クロムウェルはニューモデル軍を率いてアイルランドに上陸しました。ラスマインズの戦いで王党派・カトリック同盟連合軍を撃破し、ダブリンの確保に成功したことで、侵略は有利に進展しました。

続くドロヘダ攻城戦では、クロムウェルの命令によって、降伏した兵士やカトリック聖職者らに対する大虐殺が発生しました。この残虐行為はアイルランドに恐怖を植え付け、クロムウェルの悪名高いイメージを決定づけました。近年、当時の攻城戦における慣習と比較して、ドロヘダの虐殺が異常に残忍だったかどうかについての議論も存在します。

ドロヘダ陥落後、ウェックスフォード、ウォーターフォード、ダンカノンなど、アイルランド東岸の主要都市を次々と制圧しました。ウェックスフォードでも大虐殺が発生し、クロムウェルの責任の有無について議論が続いています。これらの残虐行為は、初期の段階でアイルランドの抵抗を弱体化させる効果も持ちましたが、同時に将来的な抵抗を激化させる結果にもつながりました。

クロンメル包囲戦では、議会軍が大きな損害を受けましたが、それでもアイルランド南部への侵攻は続き、キルケニーやクロンメルといった都市は降伏しました。マンスター地方では国王派の内紛も発生し、クロムウェル軍の進撃を容易にしました。

チャールズ2世がスコットランドと同盟を結んだことで、アイルランドの王党派は孤立し、クロムウェルの優位は確固たるものとなりました。アルスター地方ではスキャリフホリスの戦いでアルスター軍が壊滅的な敗北を喫しました。リムリックとゴールウェイは、強固な防御によって長期間の包囲戦を強いられましたが、最終的に陥落しました。

ゴールウェイ陥落をもって組織的な抵抗は終結しましたが、ゲリラ戦はその後も続きました。議会軍はゲリラ対策として、食糧供給の破壊や無差別砲撃など、残虐な手段を用いました。この結果、飢餓と疫病が蔓延し、アイルランドの人口は壊滅的な打撃を受けました。多くの捕虜は西インド諸島に奴隷として売られました。

クロムウェルの土地政策：徹底的な弾圧

クロムウェルはアイルランドのカトリック教徒に対する徹底的な土地処分を行いました。これは宗教的偏見、反乱への報復、そして軍の財政的な必要性などが背景にあります。カトリック教徒は土地を没収され、多くが国外追放、もしくは奴隷として売られました。この政策は、アイルランドのカトリック地主階級を崩壊させ、プロテスタント移民による植民地化を促進しました。

歴史的議論：残虐行為の評価

クロムウェルのアイルランド征服における残虐行為については、歴史家の間で激しい議論が続いています。クロムウェルを擁護する立場からは、当時の戦争慣習を考慮すべきだと主張されます。一方で、批判的な立場からは、クロムウェルの行為は当時の基準から見ても極めて残虐であり、ジェノサイドとみなすべきだと主張されます。いずれにせよ、アイルランド人にとって、この征服は忘れがたい苦難の時代であり、その影響は現代のアイルランド社会にも残っています。

長期的な影響：アイルランドの変容

クロムウェルのアイルランド征服は、アイルランドの英国植民地化を決定的に進め、アイルランド社会の構造を大きく変えました。カトリック地主階級の崩壊、プロテスタント移民の増加、そしてアイルランド人口の劇的な減少など、その影響は多岐にわたります。この出来事は、アイルランドにおけるナショナリズムの形成に大きな影響を与えました。王政復古後も、アイルランドのカトリック教徒は政治的、経済的な抑圧を受け続けました。クロムウェルの遺産は、アイルランドの歴史に深く刻まれた、複雑で暗い影を落としています。

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