ニューモデル軍

ニューモデル軍：イングランド内戦を勝利に導いた近代的国民軍

17世紀半ば、イングランドを舞台に繰り広げられた清教徒革命、いわゆるイングランド内戦。その激動期において、議会派の勝利に大きく貢献した軍事組織が「ニューモデル軍 (New Model Army)」です。本稿では、ニューモデル軍の誕生から終焉まで、その歴史的軌跡と意義を詳細に探ります。

誕生：議会派の弱体と改革の必要性

1642年、第一次イングランド内戦が勃発。当初、議会派は王党派に劣勢でした。王党派は国王チャールズ1世の強力な指揮の下、封建制度に基づいた効率的な兵力動員システムを有していたのに対し、議会派は地方民兵の寄せ集めによる軍隊を形成するにとどまり、戦闘能力・士気ともに劣っていたのです。

議会派軍の指揮官にも問題がありました。エセックス伯やマンチェスター伯といった有力指揮官は、消極的な作戦で機会を逸し、議会からの命令にも従わない場面もみられました。このような状況を打破すべく、議会派内部では改革の必要性が叫ばれていました。

1644年、マーストン・ムーアの戦いでスコットランド軍の支援を受けて王党派を撃破したものの、根本的な問題点は解決されていませんでした。この状況を打破すべく、東部連合副司令官オリバー・クロムウェルは、議会においてマンチェスター伯を強く批判。この出来事を機に、議会派内部は「和平派（長老派）」と「徹底抗戦派（独立派）」へと分裂しました。

クロムウェルは議会で演説を行い、早期の戦争終結を訴え、長老派主導で議員の軍指揮官兼任を禁止する辞退条例が提出されます。クロムウェルはこれを機に軍を離れましたが、議会は軍制改革の必要性を認識し、ニューモデル軍の創設へと動き出しました。1645年2月、ニューモデル条例が可決され、新たな軍隊が編成されることになります。

組織と特徴：近代的国民軍への進化

ニューモデル軍は、歩兵、騎兵、竜騎兵など約22,000名で構成されました。最高司令官にはトーマス・フェアファクス、副司令官兼騎兵隊長にはクロムウェルが就任しました。

ニューモデル軍の大きな特徴は、地方ごとのバラバラな軍隊を統合し、統一された指揮系統を確立したこと。そして、それまでのローカリズムを克服し、全国規模での作戦遂行が可能になったことです。クロムウェル率いる鉄騎隊を中核に、ピューリタンの従軍牧師による宗教的指導も兵士の士気高揚に貢献しました。

また、国王軍騎兵隊に対抗するため、軽装備の銃兵隊や竜騎兵を編成。スウェーデン軍の戦術を取り入れ、マスケット銃による一斉射撃や騎馬突撃を効果的に組み合わせた戦闘方法を採用しました。議会による装備・補給の保障も、軍の戦力強化に繋がった重要な要素でした。これらの要素が組み合わさり、ニューモデル軍はイングランドにおける近代的国民軍の先駆けとして位置付けられています。

変遷：内戦勝利から政治的影響力拡大へ

1645年6月、ネイズビーの戦いでニューモデル軍は大勝利を収めます。その後、王党派を完全に制圧し、第一次イングランド内戦は議会派の勝利に終わりました。しかし、内戦終結後、財政難から軍の維持が困難になります。軍の解散を画策する長老派と、これに反発する兵士たちの対立が深まっていきました。

クロムウェルは、議会と軍の板挟みになりながらも、軍内部の意見調整に奔走。『建議要目』『人民協定』を発表、パトニー討論にも参加しました。1648年、第二次イングランド内戦が勃発すると、ニューモデル軍は再び戦場へと駆り出され、勝利に貢献します。しかし、議会の軍への冷淡な態度は変わらず、軍は1648年12月、プライドのパージを実行し、議会を掌握しました。

議会との対立と共和国の成立

1649年、チャールズ1世が処刑され、イングランド共和国が成立します。しかし、軍と議会間の対立は続きました。アイルランド侵略では、兵士による残虐行為が行われ、アイルランド問題の遠因にもなりました。スコットランド遠征も成功するものの、軍と議会の対立は深まるばかりでした。1653年、クロムウェルはランプ議会を解散させ、護国卿として自ら権力を掌握します。

その後も、議会と軍の間の対立は繰り返されました。1654年召集された第一議会は、軍の統帥権を議会に求めたため解散、1656年召集の第二議会も軍事独裁を批判され、解散となりました。1657年にはクロムウェルの国王即位が提案されましたが、軍の反対により実現しませんでした。

終焉：王政復古とニューモデル軍の解散

1658年、クロムウェルが死去。後を継いだリチャード・クロムウェルは無力であり、軍は議会を解散、ランプ議会を復活させ、リチャードを辞任に追い込みました。しかし、軍内部の混乱やマンクによる王政復古運動など、情勢は大きく揺れ動きます。1660年、チャールズ2世がイングランドへ帰還し、王政復古が実現。ニューモデル軍は解散されました。

ニューモデル軍の一部は近衛連隊として存続しましたが、イングランドの常備軍はその後、議会による統制下に置かれるようになりました。ニューモデル軍は、近代的国民軍の原型として、イングランドの歴史に大きな足跡を残しました。その誕生から終焉まで、議会派と王党派の対立、宗教的対立、そして軍内部の政治的駆け引きなど、複雑な歴史的文脈が絡み合っています。ニューモデル軍の歴史は、イングランド革命、ひいては近代国家形成の過程を理解する上で重要な事例となっています。

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