アゴスティーノ・タッシ

アゴスティーノ・タッシ（Agostino Tassi, 1578年 - 1644年）は、ペルージア出身で、ローマで没したイタリアの画家です。主に風景画や海景画を描いていましたが、今日ではアルテミジア・ジェンティレスキを強姦した人物として広く知られています。

生い立ちと経歴

タッシは、貴族の地位を強く望み、自身の生い立ちを偽っていました。実際にはペルージア生まれでしたが、ローマ生まれだと主張していました。また、本姓はボナミチ (Buonamici) でしたが、タッシ侯爵の養子になったと偽り、タッシと名乗っていました。実父はドメニコという名の毛皮職人でした。

初期のタッシは、リヴォルノやフィレンツェで活動していたようです。リヴォルノでは、ピエトロ・チャフェーリを弟子としていたと考えられています。フィレンツェ滞在時には、何らかの罪を犯して有罪となり、トスカーナ大公のガレー船の漕ぎ手として働かされたとされています。しかし、タッシは漕ぎ手としてではなく、船内を自由に動き回ることを許されており、さらに絵を描くこともできました。この経験は、後に彼が海景画、港、船、漁業の場面を描く上で、重要な糧となりました。

タッシはパウル・ブリルの下で芸術を学び、海の描写の特徴の一部は、師であるブリルから受け継いだとされています。その後、ローマで人物画を得意とするオラツィオ・ジェンティレスキとともに、教皇パウルス5世の依頼で仕事をするようになりました。

遠近法の大家であり、建築装飾としてのトロンプ・ルイユ（騙し絵）に秀でていたタッシは、クイリナーレ宮殿（1611年 - 1612年）、ドーリア・パンフィーリ宮殿（1637年、現在のドーリア・パンフィーリ美術館）など、ローマの多くの宮殿に作品を残しました。

1625年4月以降、ローマではフランス人画家のクロード・ロランを弟子として雇っていました。タッシは、ロランに絵の具の調合や家事全般をさせていました。

タッシは主にフレスコ画で知られていましたが、キャンバス画も制作しており、『シバの女王のソロモンへの到着』（1610年頃）や『タッデオ・バルベリーニのポポロ門からの入場』（1632年）などが現存しています。タッシによる夜景の描写は、オランダの画家レオナールト・ブラーメルにも影響を与えました。

強姦罪での有罪判決

1612年、タッシはオラツィオ・ジェンティレスキの娘であり、画家でもあったアルテミジア・ジェンティレスキを強姦した罪で有罪判決を受けました。タッシは当初、嫌疑を否認し、「私はアルテミジアと肉体関係を持ったことは一度もないし、そのような関係を迫ったこともない...アルテミジアの家で彼女と二人きりになったこともない」などと主張していました。後には、彼女の名誉を守るために彼女の家へ行ったと主張を変えました。

タッシには前科があり、以前にも義理の妹や元妻に対する強姦で訴えられていました。当時のタッシの妻は行方不明であり、タッシがごろつきを雇って殺害した疑いが持たれていました。

7ヶ月に及んだ強姦裁判の中で、タッシが妻の殺害を計画していたこと、義妹との近親相姦、そしてオラツィオの絵画作品の窃盗計画が明らかになりました。裁判の結果、タッシは2年間投獄されることになりました。その後、判決は破棄され、1613年に釈放されました。この裁判は、20世紀後半になってからフェミニズムの視点からのアルテミジア・ジェンティレスキの再評価に影響を与えました。

大衆文化の中で

アニエス・メルレ監督、ヴァレンティナ・チェルヴィ主演の1997年の映画『アルテミシア』では、セルビア人俳優のミキ・マノイロヴィッチがタッシ役を演じました。この映画では、史実とは異なり、タッシとアルテミジアの関係を、相思相愛の情熱的なものとして描いています。

主な作品

Stormy Seascape with Jonah and the Whale
The Embarkation of a Queen
Landscape with Tobias and the Angel

これらの作品は、タッシの海景画の卓越した技術を示しています。

脚注

[外部リンク]
Orazio and Artemisia Gentileschi - メトロポリタン美術館の美術図書館によるジェンティレスキ父娘のデジタル・カタログ（タッシの作品も参照できます。）
* Agostino Tassi (paintings)

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