クヮイエット・ファイア

『クヮイエット・ファイア』（Quiet Fire）は、ソウルフルな歌声で知られるアメリカ合衆国のR&Bシンガー、ロバータ・フラックによって1971年に発表された3枚目のスタジオ・アルバムです。彼女の芸術性が一層深まった時期に制作された本作は、そのタイトルが示唆するように、内に秘めた情熱と静謐な表現力が見事に調和した作品として評価されています。

背景と制作

本作には、広く知られた楽曲のカヴァーが複数収められています。特に印象的なのは、サイモン&ガーファンクルの名曲「明日に架ける橋」（Bridge over Troubled Water）の大胆な解釈です。この感動的なヴァージョンでは、著名なソウル歌手であり、後にホイットニー・ヒューストンの母親としても知られるシシー・ヒューストンがコーラスに加わっており、楽曲に深みと力強さを加えています。また、女性ボーカルグループ、シュレルズが「ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロウ」としてヒットさせた「ウィル・ユー・スティル・ラヴ・ミー・トゥモロウ」（Will You Still Love Me Tomorrow）も収録されており、フラックならではの情感豊かな歌唱で新たな生命が吹き込まれています。ビー・ジーズの楽曲「トゥ・ラヴ・サムバディ」なども取り上げられ、バラエティ豊かな選曲となっています。

反響と評価

『クヮイエット・ファイア』は商業的にも高い評価を獲得しました。アメリカの主要な音楽チャートであるBillboard 200では最高18位を記録。さらに、『ビルボード』誌のR&Bアルバム・チャートでは4位、ジャズ・アルバム・チャートでは5位と、それぞれのジャンルでトップクラスの成績を収めました。本作からシングルカットされた「ウィル・ユー・スティル・ラヴ・ミー・トゥモロウ」も、Billboard Hot 100で76位、『ビルボード』のR&Bシングル・チャートで38位にランクインし、アルバムの成功に貢献しました。

音楽評論家からの評価も非常に高く、オールミュージックのStephen Cookは、アルバムタイトル「Quiet Fire」は的を射ていると指摘しています。彼は、収録された8曲の楽曲の表面下には、ロバータ・フラックのMOR的でありながらも洗練されたジャズやゴスペルの要素を含んだボーカルが、今にも爆発しそうなほどの情熱を秘めていると評しました。そして、本作をフラックの「最高傑作の一つ」として高く評価しています。また、伝説的なミュージシャンであるエルトン・ジョンは、フラックによる「明日に架ける橋」のカヴァーを聴いて深く感銘を受けたと伝えられています。彼はフラックに手紙を送り、「親愛なるロバータ、僕はここ何年もこんなに美しいものを聴いていない」とその感動を伝えたといいます。

収録曲

アルバムには以下の8曲が収録されています。

1. ゴー・アップ・モーゼズ - "Go up Moses" (Roberta Flack、Jesse Jackson、Joel Dorn) – 5:20
2. 明日に架ける橋 - "Bridge over Troubled Water" (Paul Simon) – 7:13
3. サンデイ・アンド・シスター・ジョーンズ - "Sunday and Sister Jones" (Gene McDaniels) – 5:00
4. シー・ユー・ゼン - "See You Then" (Jimmy Webb) – 3:43
5. ウィル・ユー・スティル・ラヴ・ミー・トゥモロウ - "Will You Still Love Me Tomorrow" (Carole King、Gerry Goffin) – 4:06
6. トゥ・ラヴ・サムバディ - "To Love Somebody" (Barry Gibb、Robin Gibb) – 6:42
7. レット・ゼム・トーク - "Let Them Talk" (Sonny Thompson) – 3:53
8. スウィート・ビター・ラヴ - "Sweet Bitter Love" (Van McCoy) – 6:04

参加ミュージシャン

本作の制作には、ロバータ・フラック自身のボーカル、ピアノ、アレンジに加え、一流のミュージシャンたちが多数参加し、アルバムのサウンドを豊かにしています。主要な参加者は以下の通りです。

ロバータ・フラック: ボーカル、ピアノ、アレンジ
リチャード・ティー: オルガン (on #1, #6)
ヒュー・マクラッケン: ギター (on #1, #3, #4, #6)
チャック・レイニー: ベース (on #1, #3, #4, #6, #7)
バーナード・パーディー: ドラムス (on #1, #3, #4, #6)
グラディ・テイト: パーカッション (on #1)、ドラムス (on #7)
ラルフ・マクドナルド: パーカッション (on #1, #3, #4)
ジョー・ファレル: アルト・サックス (on #3)、フルート (on #3, #4)、テナー・サックス (on #7)
ヒューバート・ロウズ: フルート (on #4)
シシー・ヒューストン: バッキング・ボーカル (on #2)
* その他、テリー・プルメリ（アコースティック・ベース）、デヴィッド・ケリー（ヴィブラフォン）など、多くの演奏家が参加。

プロデューサーのジョエル・ドーンやアレンジャーのアリフ・マーディン、エウミール・デオダート、ウィリアム・イートンらも、アルバムのサウンドメイキングに重要な役割を果たしています。

『クヮイエット・ファイア』は、ロバータ・フラックの卓越した歌唱力と、ジャズ、ゴスペル、ソウルの要素を洗練された形で融合させたサウンドが光る、彼女のキャリアを代表する作品の一つとして、今日でも多くの音楽ファンに愛されています。

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