グラティアヌス

グラティアヌス帝：揺れる帝国の若き皇帝

フラウィウス・グラティアヌスは、ローマ帝国の皇帝として、367年から383年までの治世を担いました。わずか8歳で西方正帝の称号を受け継いだ彼は、父ウァレンティニアヌス1世の死後、複雑な政治情勢の中で帝位を守り抜こうと奔走する生涯を送ることになります。

父帝の死後、イリュリクムの軍団の反乱という危機に直面したグラティアヌスは、まだ16歳でした。彼の拠点であるトリーアは遠いため、老臣メロバウデスが迅速に事態を収拾しました。メロバウデスは、グラティアヌスの異母弟ウァレンティニアヌス2世を共同皇帝に擁立し、軍団の忠誠を確保したのです。グラティアヌスは、この事態を最終的には受け入れました。

その後、東ローマ帝国が蛮族の蜂起に苦しむ中、グラティアヌスはメロバウデス、リコメル、バウト、アルボガストといった重臣たちを東方へ支援に派遣しました。378年には自らもアラマンニ族との戦いに参戦し、アラマンニ王プリアリウスを打ち破るなど、軍事的な手腕も見せつけました。しかし、この勝利は皮肉にも東ローマ[[皇帝]]ウァレンスを焦らせ、ハドリアノポリスの戦いでウァレンスが戦死するという悲劇を招くことになります。

ウァレンスの死後、グラティアヌスは隠遁生活を送っていたテオドシウス（後のテオドシウス1世）を東方担当の共同皇帝に任命しました。テオドシウスの父である大テオドシウスの名誉回復を約束することで、彼を帝国の危機に立ち向かう協力者としたのです。しかし、壊滅状態にあった東方の軍団を支えたのは、グラティアヌスが派遣したフランク人の軍団でした。

初期のグラティアヌスは、父帝の宗教政策を継承し、異教への寛容を示していました。しかし、ミラノで司教アンブロジウスと出会ったことで、彼の宗教観は大きく変化します。379年には、ローマ[[皇帝]]として初めてポンティフェクス・マクシムスの衣裳を着用することを拒否し、寛容令を撤回。さらに、ローマ神官団やウェスタ神殿の巫女の権利を剥奪し、古代ローマの伝統宗教への弾圧を強めていきました。

ミラノを拠点とし、アンブロジウスの影響を強く受けたグラティアヌスは、宗教心に傾倒していく一方、伝統宗教を信仰する元老院や軍隊からの支持を失っていきました。383年、ブリタンニアの軍団がマグヌス・マクシムスを皇帝として擁立し、ガリアへ侵攻を始めます。グラティアヌスはこれに対抗しますが、敗北し、ルグドゥヌムで暗殺されてしまいます。メロバウデスの裏切りが敗北の原因の一つとも噂されましたが、真実は藪の中です。

グラティアヌスの私生活にも注目すべき点があります。彼は15歳の時にコンスタンティウス2世の娘コンスタンティアと結婚しましたが、彼女は若くして亡くなります。その後、ラエタという女性と結婚しますが、子供は生まれなかったようです。コンスタンティアとの間に生まれた子供の消息は不明であり、多くの謎を残しています。ラエタは410年のアラリック1世によるローマ略奪の際に、食糧難に苦しむローマ市民に食料を分け与えていたことが記録に残っています。

グラティアヌスは、短い生涯の中で、帝国の政治、宗教、軍事といった様々な問題に直面し、葛藤しながらもその中で重要な決断を下しました。彼の治世は、ローマ帝国の衰亡に向かう過程における重要な転換点として、歴史に刻まれています。

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