グリーンランド人のサガ

『グリーンランド人のサガ』は、アイスランド人のサガに分類される作品で、ノース人のアメリカ大陸植民地化に関する貴重な記録です。特に、『赤毛のエイリークのサガ』と共に、「ヴィンランド・サガ」として知られています。

概要

このサガは、14世紀後半にフラート島本に収録され、13世紀に書かれたと考えられています。物語の舞台は970年から1030年頃で、赤毛のエイリークによるグリーンランド植民、そして彼の子どもたちやソルフィン・カルルセフニによる西方探検が描かれています。ただし、物語には空想的な要素も含まれていると考えられています。

北欧文学者の谷口幸男は、『グリーンランド人のサガ』を『赤毛のエイリークのサガ』と比較し、人物描写の誇張や説明的な文章が目立ち、真実味や面白みに欠けると評しています。

あらすじ

グリーンランド植民

エイリークとその父ソルヴァルド・アスヴァルズソンは、殺人を犯しノルウェーからアイスランドへ移住します。エイリークはアイスランドでショーズヒルドと結婚しますが、再び問題を起こし追放されてしまいます。そこで彼は、以前グンビョルン・ウルフソンが見つけたとされる西方の島を目指します。

エイリークは氷河に覆われた陸地に到達し、南下して定住可能な土地を探します。2年間の探検後、彼はアイスランドに戻り、発見した土地をグリーンランドと名付けます。良い名前は人々を引きつけると考えたからです。

エイリークは再びグリーンランドへ向かい植民を開始します。30隻の船団のうち、グリーンランドに到達できたのは14隻でした。エイリークはグリーンランド南西部のブラッターフリーズに住み、指導者として尊敬を集めます。彼とショーズヒルドの間には、レイフ、ソルヴァルド、ソルステインの3人の息子と、フレイディースという娘が生まれます。

ビャルニの航海

ビャルニ・ヘルヨルフソンは、ノルウェーとアイスランドを交互に訪れていました。ある夏アイスランドに着くと、父がグリーンランドへ移住したことを知ります。彼は父を追いますが、グリーンランドの海域は未知であり、危険な航海になるだろうと感じていました。

アイスランドを出航後、ビャルニは悪天候に見舞われ進路を見失います。数日後、森に覆われた陸地を発見しますが、グリーンランドではないと判断し上陸しません。その後も2つの島を発見しますが、いずれもグリーンランドの特徴とは異なっていたため、上陸を拒否します。そしてついに、グリーンランドに到着し定住します。

ビャルニの話は『グリーンランド人のサガ』のみに登場します。『赤毛のエイリークのサガ』では、レイフがヴィンランドの発見者として描かれています。

レイフの探検

レイフ・エリクソンはビャルニの発見した陸地に興味を持ち、彼から船を買い取ります。35人の乗組員を雇い、父エイリークに探検のリーダーを依頼しますが、エイリークは高齢を理由に断ります。しかし最終的には同意するものの、乗船前に落馬し負傷してしまいます。これを凶兆と考えたエイリークは、レイフに探検を託します。

レイフはブラッターヒルズを出航し、ビャルニが見つけた島々を発見します。最初に到着したのは氷に覆われた土地で、ヘッルランド（平石の国）と名付けました。次に森と白い砂浜の陸地を発見し、マルクランド（森の国）と名付けます。

さらに航海を続け、定住に適した土地を発見します。土地は肥沃で、冬に霜が降りる心配もありませんでした。レイフたちはここで冬を越すことに決めます。

レイフたちはブドウを発見し、その土地をヴィンランド（ワインの国）と名付けます。しかし、ノース人がブドウに馴染みが薄かったため、グーズベリーのような他の果実をブドウと間違えた可能性も指摘されています。グリーンランドへの帰路、レイフは難破したノース人の一団を救出し、「幸福なレイフ」と呼ばれるようになります。

ソルヴァルドの探検

レイフの航海は評判となり、弟のソルヴァルド・エリクソンはヴィンランドの未探索部分を調査しようとします。レイフから船を借りたソルヴァルドは、30人の乗組員と共にヴィンランドへ向かいます。以前レイフが建てた小屋を見つけ、そこで冬を越します。

春になるとソルヴァルドは西部の探検を開始します。納屋を見つけますが、人の気配はありません。冬になると小屋に戻り越冬します。次の夏、ソルヴァルドは小屋の東部と南部を探検し、樹木に覆われた美しい土地を発見します。しかし、先住民（スクレリング）のカヤック集団に遭遇し、殺害してしまいます。その後、先住民の集落を見つけますが、大軍に襲われソルヴァルドは致命傷を負います。ソルヴァルドはヴィンランドに埋葬され、残りの乗組員はグリーンランドへ帰還します。

ソルステイン

ソルステイン・エリクソンは、ソルヴァルドの遺体を取り戻すためヴィンランドへ向かうことを決意します。妻グズリーズ・ソルビャルナルドーティルと25人の乗組員と共に、レイフとソルヴァルドが使用した船で出航しますが、ヴィンランドに到達できず、夏の間中を漂流し、グリーンランドへ帰還します。その冬、ソルステインは病死しますが、死後蘇りグズルーズがアイスランド人と結婚し、裕福な生活を送るだろうと予言します。

カルルセフニの探検

ソルステインの埋葬された夏、ソルフィン・カルルセフニがグリーンランドに到着します。彼はグズルーズと恋に落ち結婚し、彼女や他の人々に勧められヴィンランドへの航海を決意します。60人の男性と5人の女性を雇い、レイフとソルヴァルドの小屋に到着し冬を越します。

次の夏、スクレリングの一団が毛皮を持って交易にやってきます。先住民は武器を欲しがりますが、カルルセフニは代わりに牛乳を勧め、交易は成功します。

2度目の冬の初め、スクレリングが再び交易にやってきます。カルルセフニの仲間が、武器に手を伸ばしたスクレリングを殺害したため、先住民は怒り大勢で襲ってきます。ノース人との戦闘になり、カルルセフニは残りの冬をそこで過ごし、春にグリーンランドへ帰還します。ヴィンランド滞在中、カルルセフニとグズルーズの間にはスノッリ・ソルフィンズソンが生まれます。

フレイディースの探検

エイリークの娘フレイディース・エリクスドッティルは、富と名誉を求めてヴィンランドへ向かいます。彼女はヘルギとフィンボギという2人のアイスランド人に、利益を折半してヴィンランドへ行くことを提案します。2人は同意しますが、フレイディースは取り決めを破り、約束より多くの人数を船に乗せます。

ヴィンランドに到着すると、フレイディースは2人を裏切り、寝込みを襲って殺害します。さらに、自分の仲間が殺そうとしなかった敵の女性5人を自ら殺害します。そして乗組員に、このことを誰にも話さないよう脅します。

1年後、フレイディースはグリーンランドへ戻り、ヘルギとフィンボギはヴィンランドに留まることを選んだと説明します。しかし秘密は漏洩し、フレイディースの殺人がレイフの耳に入ります。レイフは帰還した3人の男を捕らえ拷問し、真相を聞き出します。レイフはフレイディースを罰しませんでしたが、「彼女の子孫は決して栄えることはないだろう」と予言します。

終わり

カルルセフニは探検で十分な利益を得て、妻や子供と共にアイスランドに定住します。彼らは多くの子宝に恵まれ、その子孫からはアイスランドの司教が輩出されました。サガは、カルルセフニがこの航海について最も詳しく語った人物であると締めくくられています。

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